がん治療におけるアントラサイクリン系薬剤の心毒性(アドリアマイシン心毒性)はよく知られているが、心保護薬として知られるβ遮断薬、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬とも、この心毒性に対する抑制作用は必ずしも十分ではない[Vaduganathan M, et al. 2019]。またすでに"volume depletion"をきたしている例では使いにくい。
そのため心保護薬の探索が続けられているが、2型糖尿病に対する心血管系イベント抑制作用が報告されているメトホルミンが[UKPDS 34]、その候補に上がってきた。米国・ペンシルバニア大学の尾上武志氏らによる、JACC CardioOncology誌8月29日掲載の米国観察研究を紹介する。
今回の解析対象は、米国単一病院においてアントラサイクリン系薬剤がん治療を受けた糖尿病561例中、傾向スコアでマッチした350例である。心筋症や心不全例は除外されている。175例がメトホルミン「服用」、残り175例が「非服用」だった。
年齢中央値は65歳、女性が65%強を占めた。がん種としては白血病(約30%)が最多で、乳癌(約25%)が続いた。
血圧は「130/74mmHg」、55%がRA系抑制薬、40%がβ遮断薬、60%強がスタチンを服用していた。
がん種とアントラサイクリン系薬剤の用量に両群間で有意差はない。
これら350例を1.7年間(中央値)追跡し、心不全発症と死亡のリスクを比較した。
・心不全発症
「死亡」を競合リスクとして扱った「心不全発症」率は、アントラサイクリン系薬剤開始5年後、メトホルミン「服用」群で有意に低く(8.1% vs. 15.7%、P=0.026)、発症ハザード比(HR)も0.44の有意低値だった(95%信頼区間[CI]:0.21-0.93)。
この差はアントラサイクリン系薬剤開始1年後という早期から認められた(HR:0.35、95%CI:0.14-0.90)。
・死亡
「死亡」も同様にメトホルミン「服用」群で有意なリスク低下を認めた(HR:0.71、95%CI:0.50-1.00、P=0.049)。
メトホルミンがアントラサイクリン系薬剤による心不全発症を抑制する機序として尾上氏らは、抗炎症作用[Rena G, et al. 2017]の可能性を指摘している。
メトホルミンを用いたランダム化比較試験の実施が待たれる(患者登録不調で途中中止となった試験は過去に1件あり[NCT02472353])。
本研究は米国保健福祉省、ならびに米国国立心肺血液研究所から資金提供を受けて実施された。