日本では,従来,オピオイド鎮痛薬は専らがん疼痛(がん自体が原因の痛み)に対して使用されてきました。しかし,2010年以降,フェンタニル貼付剤の非がん性疼痛への適応拡大,トラマドール内服製剤とブプレノルフィン貼付剤の発売をきっかけに,運動器疼痛を中心とした難治性非がん性慢性疼痛にもオピオイド鎮痛薬が幅広く使用されるようになりました。2020年には強オピオイドであるオキシコドン徐放剤が非がん性疼痛に適応拡大となり,選択の幅がさらに広がりました。その中でもトラマドールは弱オピオイド鎮痛薬ですが,本邦では麻薬指定ではないため,処方に煩わしさがなく,安易に処方されるケースが増えています。
がん疼痛と非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使用方針は大きく異なります。がん疼痛に対しては痛みを取り除くことを目標として,痛みの強さと鎮痛効果に応じて増量し,高用量のオピオイド鎮痛薬を使用することが許容されます。一方,非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使用目的は,痛みを取り除くことではなく,QOLの向上です。このため,オピオイド鎮痛薬での治療を考慮する際に,痛みの器質的要因が明らかでない症例や物質使用障害などの精神疾患の既往がある症例には処方しない,というように患者選択を厳格に行うことが重要となります。また,オピオイド鎮痛薬の処方を開始する場合は,低用量(経口モルヒネ換算で60mgまで),短期間(3カ月以内,最長でも6カ月)にとどめるべきで,処方中は適正使用についてモニタリングを行う必要があります。
【回答者】
上野博司 京都府立医科大学麻酔科学教室准教授