疼痛や冷え症状は加齢とともに出現頻度が増加する1)といわれている。また高齢者においては,複数の疾患を有し,多剤が併用されている場合も多く,薬の副作用が生じ易いことから,西洋薬の使用が難しい症例をしばしば認める。そんな状況の中,桂枝加朮附湯を処方することにより上肢痛や肩関節周囲炎,三叉神経痛,帯状疱疹後神経痛,炎症性や疼痛性疾患の治療に良好な結果を得ている報告が散見される。
桂枝加朮附湯とは桂枝湯(桂皮,芍薬,大棗,甘草,生姜)に附子と朮(主に蒼朮)を加えたものである。桂枝湯は主にかぜの初期に用いられる漢方薬だが,葛根湯と違い,体力がなかったり,胃腸が弱かったり,あるいは日頃から疲れやすくかぜをひきやすいなど,病気を体の外へ追い出す力が弱い「虚証」の人や高齢者に向く薬である。この桂枝湯に寒を伴う疼痛に効果のある附子と,駆水作用のある蒼朮を加えてできたものが桂枝加朮附湯である。
三叉神経痛や帯状疱疹後神経痛では神経周囲の浮腫,血管圧迫の改善,末梢循環改善の目的に桂枝加朮附湯が多く用いられている。
附子はトリカブト(写真)の塊根を湿熱処理し減毒したもので,温補・回陽作用,寒邪,湿邪に対する鎮痛作用があることから,一般に四肢・体幹の冷え性や疼痛疾患,うつ状態に適応がある。また,近年,附子によりCRPが低下することが判明し,西洋医学的な意味での抗炎症作用があることも示唆されている2)。
附子の副作用として,動悸,不整脈,口唇のしびれ,のぼせ,悪心,嘔吐,頭痛,下痢などがある。そのためか使用を躊躇してしまう医療従事者も多いとされている。しかし,附子の安全性と副作用を十分理解した上で使用すれば問題ないとする報告もまた散見されている。実際にはこれらの症状は,大半が服用の中止のみで消失する。もし回復が遅ければ,硫酸アトロピン,塩酸リドカイン,塩酸プロカインアミドおよびステロイドなどの投与による対応も可能である。
附子末は漢方処方の調剤に用いるため単独では使用できない。今回ご紹介した桂枝加朮附湯のほかにも,牛車腎気丸,八味地黄丸,疎経活血湯,防已黄耆湯,越婢加朮附湯等(まだまだありますが…)を処方しており,これらを使用して「温めると楽になるというけれどあと一押し!」という際には,処方を変える前に附子を加えてみてはいかがだろうか。
加える際には1日0.5gから開始し,副作用に注意しながら最大1.5gまで増量してみてください。