東アジア人がん患者でも血管新生阻害薬を用いると心血管系(CV)イベントリスクは非使用例に比べ2倍近く上昇する可能性が、レジストリ内症例対照研究の結果、明らかになった。Yen-Chou Chen氏らが2023年12月29日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
血管新生阻害薬によるCVリスク増加はすでに、ランダム化比較試験のメタ解析[Abdel-Qadir H, et al. 2017]から報告されている。しかし人種差が存在する可能性も指摘されており[Chen YC, et al. 2018]、今回は東アジア人に限り、加えて実臨床データを用いた解析に至った。
解析対象となったのは、新規がん診断後に「CVイベント」を発症した1万7710例と、発症しなかった7万840例である(計8万8550例)。「台湾がんレジストリ」に登録された、がん診断直近1年間にCV疾患既往のない成人28万4292例から抽出された。
両群は「年齢(5歳単位)」「性別」「がん種」「がん診断年」「観察期間」でマッチされている。「CVイベント」の内訳は、脳血管障害と心筋梗塞、心不全入院、そして新規心房細動と静脈血栓塞栓症である。
これら8万8550例のCVイベント「発症」群と「非発症」群間で血管新生阻害薬の使用状況を比較し、「CVイベント」発症との相関を探った。
・血管新生阻害薬使用状況とCVイベント発生率
血管新生阻害薬使用率は全体の3.22%だった。その後にCVイベントを認めたのは28.8%だった。CVイベント発症までの期間は短く、発症例の63.0%は血管新生阻害薬使用後1年以内だった。
・血管新生阻害薬使用の有無とCVイベントリスク
CVイベントリスクは、血管新生阻害薬使用に伴う増加が示唆された。すなわち使用例における同イベント発症オッズ比(OR)は、1.67(95%信頼区間[CI]:1.54-1.82)の有意高値だった。この結果は、CVイベント「発症」群と「非発症」群を傾向スコアでマッチ後に比較しても同様だった(OR:2.15、95%CI:1.93-2.40)。また血管新生阻害薬使用に伴うCVイベント発症ORの有意上昇は、血管内皮増殖因子(VEGF)モノクローナル抗体、VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬のいずれでも観察された。
2021年に公表されたわが国の「Oncocardiologyガイドライン」(日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会)ではがん治療後の心臓評価について、「欧米ガイドライン(略)の内容と齟齬のない推奨が日本国内でも望ましい」とした上で、血管新生阻害薬については「治療開始1年後の心エコー図検査・バイオマーカー検査・心電図検査」という推奨を、海外ガイドラインの和訳として掲出している。
本研究は台北大学萬芳病院から助成金を受けた。