SpO2の低下があれば酸素投与を行う。重症の呼吸不全であれば,原疾患の鑑別診断を進めるよりも呼吸状態の安定化を優先し,必要に応じてhigh-flow nasal canula,非侵襲的陽圧換気(NPPV),人工呼吸器などを使用するが,咳のみの症状でそれらが必要となることは稀である。一方,SpO2が正常であっても,強い呼吸苦や頸部聴診でストライダーを認める場合は上気道狭窄や上気道閉塞を疑い,気管挿管によって気道確保する必要がある。
喘息あるいはアレルギー反応による咳である場合は,以下の気管支拡張薬の吸入を行う。
一手目 :ベネトリンⓇ吸入液(サルブタモール硫酸塩)0.5~1.0mL+生理食塩水4.0mL(ネブライザーを用いて吸入)20~30分ごとに3回まで
胸部X線検査,胸部単純CT検査は,咳・痰の原因を同定するのに非常に有用である。心電図検査や心エコー検査は心疾患の診断に有用だが,心疾患による咳・痰であっても基本的には胸部X線・CT検査にて異常所見を認めることを知っておく。
画像所見で異常を認めない場合,喘息,後鼻漏,ACE阻害薬などによる薬剤性等の可能性が高い。慢性的に継続する咳で画像所見に異常を認めない場合は,気道過敏症なども考慮する。
画像所見によっては腫瘍性疾患,炎症性疾患,感染症などの診断のために気管支鏡検査に進むが,画像検査で異常所見を認めない場合に原因検索で気管支鏡検査を行うことはほとんどない。
咳・痰は呼吸器疾患の代表的な症状であるが,心不全やアナフィラキシーなど,その他の重症病態が原因となっていることがあるため,幅広い鑑別診断を挙げて原因検索することが重要である。特に,未診断あるいは診断までの検査方針が定まらない状態で安易に対症療法を行うことは避けるべきである。
咳・痰の原疾患が診断された場合は,その治療を行う。咳・痰の原因が診断された場合,あるいは検査の方針が定まった場合には以下の対症療法を考慮する。リン酸コデインは呼吸抑制などの副次的作用があるため,投与禁忌を確認した後に投与する。
一手目 :メジコンⓇ15mg錠(デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物)1回1錠1日3回(毎食後)
二手目 :〈処方変更〉リン酸コデイン散1%(コデインリン酸塩水和物)1回2g 1日3回(毎食後)
【参考資料】
▶ Fanta CH:Chapter 38 Cough. Harrison’s Principles Internal Medicine. 21st ed. Loscalzo J, et al, ed. McGraw-Hill Education, 2022.
▶ Irwin RS, et al:Chest. 2018;153(1):196-209.
▶ Visca D, et al:Eur J Intern Med. 2020;81:15-21.
山元 良(慶應義塾大学医学部救急医学教室)