・「木洩れ陽2032」におけるCOPD死亡率減少への実行モデル,難治性気管支喘息の個別化医療をめざすtreatable traits approachにおいても,全身併存症管理は大きな要素であり,GERDは重要な併存症のひとつである。
・呼吸器疾患におけるGERDは,食道外症候群にも意識を向けることが重要。
・上部消化管悪性腫瘍併発のリスクから,内視鏡検査の閾値は低く設定すべき。
・呼吸器疾患患者はGERDの頻度が高く,疾患発症など悪循環を呈する。
・GERDは他の併存症にも影響する。
・LES圧とUES圧の低下,胃食道運動障害といった複数の機序が想定される。
・主に想定される機序には,reflux theoryとreflex theoryがある。
・主に,咳嗽や喀痰,健康関連QOLの低下,一秒量など横断的な呼吸機能低下や呼吸機能の経年低下の加速,画像所見に代表される形態的変化,増悪リスクや死亡リスクの上昇が挙げられる。
・呼吸器疾患増悪時の咳嗽は,GERDによる修飾が加わることも多い。
・生活習慣の是正とともに,酸分泌抑制治療が行われることが多いが,肺炎発症には注意が必要。
・食道運動障害の関与から消化管運動機能改善薬などの併用も望ましい。
・頻回の呼吸器疾患増悪例,治療によっても咳や痰が続く症例,睡眠の質が悪い例などには,積極的なGERDの診断・治療が望まれる。
・呼吸器疾患に伴うGERDは,その機序から寛解・増悪を繰り返すことも多い。
難治・重症呼吸器疾患の管理において,全身併存症の管理の重要性は近年ますます認識されるようになっている。
たとえば,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は,タバコ煙を主とする有害物質の反復吸入による炎症や構造改変の結果,気腫病変と気道病変が様々な程度で生じることで引き起こされる肺疾患であるが,近年では骨格筋減少などの全身徴候,種々の併存症を伴う全身疾患であるとの理解が広まっている1)2)。
COPDにおける全身併存症は,喫煙といった共通の危険因子のみならず,炎症をはじめとした共通の病態生理学的機序を有する。併存症は疾患の自然経過に影響を及ぼすだけでなく,疾患自体も併存症の経過に影響を与えうる。COPDは,わが国の「健康日本21(第三次)」においても対策を必要とする重要な生活習慣病と位置づけられている重要な健康課題で,死亡率の減少を目標として掲げられている。また,日本呼吸器学会で「木洩れ陽2032(Project for COPD MOrtality REduction BY 2032, COMORE-By2032)」と銘打ち提唱された実行モデルの中でも,合併症および併存症の予防・治療は重要な要素である(図1)3)。
また,複数の生物学的製剤の使用が可能となり,治療が大きく進歩している難治性・重症気管支喘息においても,喘息の診断,服薬アドヒアランスの確認・改善,吸入手技の確認,危険因子の特定・除去と並び,併存症の診断と治療が,生物学的製剤導入に先んじて重視することが掲げられている4)~6)。最近の難治性気管支喘息診療におけるトピックのひとつである,治療可能な特性を見出し,表現型に基づいた個別化医療をめざすtreatable traits approachにおいても,併存症管理は大きな位置を占める(図2)7)。特に,個々の併存症は独立したものとは限らず,相互に影響し病態を複雑にすることにも,留意が必要である。
本稿では,多くの呼吸器疾患における重要な併存症として認識が高まっている,胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)について,基礎知識を整理し,呼吸器疾患におけるGERDとの臨床的関連性やその管理について触れたい。