甲状腺眼症は眼窩内組織のTSH受容体や外眼筋抗原などに対する自己免疫機序によりMüller筋,上眼瞼挙筋,外眼筋,脂肪組織,涙腺に炎症をきたし,眼球突出,眼位異常,上眼瞼後退症,涙液分泌低下症などが生じる眼窩炎症性疾患である。特に問題となるのは,複視によるQOV(quality of vision)の低下と眼球突出や上眼瞼症状による整容面での変化と考えられる。炎症期には消炎治療を行い,非炎症期には観血的治療を行う。
必ずしもバセドウ病患者に発症するわけではないため(euthyroid ophthalmopathy),甲状腺ホルモン,甲状腺関連自己抗体の測定に加え,眼窩MRIをオーダーする。甲状腺眼症は甲状腺ホルモン値とは関連しないが,甲状腺関連自己抗体とは関連があり,いずれかの抗体が陽性となる。眼窩MRI STIR(short TI inversion recovery)法にて炎症部位が高信号に描出される。外眼筋に炎症があり,それに相応する拘縮性眼球運動障害がある,あるいは眼窩脂肪の増生→眼球突出,上眼瞼挙筋の炎症→上眼瞼後退症など,画像と臨床症状に相関があれば甲状腺眼症と診断する。
単筋の外眼筋,上眼瞼挙筋の炎症であれば,ステロイドの局所投与を行う。一方,複数の外眼筋に炎症があれば,ステロイドパルス療法(weekly法が推奨されている)を施行し,重症例では放射線治療を併用する1)。治療から約1~2カ月後に眼窩MRIを施行して治療効果判定を行い,炎症が残っていれば,炎症のある外眼筋にのみステロイドの局所注射を行う。
ただし,肥大した外眼筋による圧迫性視神経症をきたしている場合は,早期のステロイドパルス療法に加え,時機を逸することなく眼窩減圧術を施行する。
消炎は通常,ステロイド治療から約半年後,MRIで確認する。眼位異常に対しては斜視手術,眼球突出に対しては眼窩減圧術,上眼瞼後退症に対しては上眼瞼挙筋部分切腱術などの適応である。2016年から適応となった斜視に対するボツリヌス毒素療法は甲状腺眼症の斜視に有効2)で,特に小斜視角の上下斜視に対しては約3割で手術を回避できたとの報告もある。
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