東アジア人2型糖尿病(DM)に対するGLP-1-RAとSGLT2阻害薬は、心血管系(CV)転帰への作用こそ差はないものの、腎保護作用はSGLT2阻害薬が勝り、また軽度フレイル例ではGLP-1-RAで重度高血糖のリスクが高まる可能性が示された。台湾公的保険データベース解析の結果として国立台湾大学のFei-Yuan Hsiao氏らが9月13日、Lancet Healthy Longevity誌で報告した。
解析対象の母体は、台湾在住で2017年から19年にかけ、GLP-1-RAかSGLT2阻害薬を新規に処方された成人2型DM 28万163例である。台湾公的保険データベースから抽出した。がん患者や透析例は除外されている。
まずこれら28万163例を、フレイルの程度で3群(フレイル「なし」「軽度」「中等度」)に分けた。さらにそれぞれの群ごとに傾向スコアを用いてGLP-1-RA開始例とSGLT2阻害薬開始例をマッチさせ(計2万2506例ずつ)、諸転帰を比較した。フレイルの評価にはmultimorbidityフレイル指数(mFI)を用いた。mFIはICD-10-CMからフレイルの程度を評価するスコアである[Lai HY, et al. 2022]。傾向スコアマッチ前の28万163例では、56.5%がフレイル「なし」、31.6%がフレイル「軽度」、11.9%が「中等度以上」だった。
・フレイル分布
傾向スコアマッチ後の4万5012例中、フレイル「なし」は52.8%、「軽度」32.0%、「中等度以上」15.2%だった。
・MACE
「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクは、フレイルの程度を問わず、GLP-1-RA群とSGLT2阻害薬群間に有意差はなかった。
・総死亡など
同様に「総死亡」「心不全入院」「重篤糖尿病性足合併症」「網膜症」もフレイルの有無/程度を問わず、GLP-1-RA群とSGLT2阻害薬群間に有意差はなかった。
・腎転帰
一方、「透析・腎移植」のリスクは、フレイルの有無/程度を問わずGLP-1-RA群で、SGLT2阻害薬群に比べ有意に高くなっていた。すなわち、GLP-1-RA群における部分分布ハザード比は、フレイル「なし」で2.43(95%CI:1.82-3.23)、「軽度」が3.93(3.03-5.09)、「中等度以上」で2.60(2.03-3.31)である。
・重篤高血糖による入院
また「重篤な高血糖による入院」も「軽度」フレイル例に限ってだが、GLP-1-RA群で有意に高リスクだった(1.25、1.13-1.38)。
Hsiao氏らはGLP-1-RA群における「透析・腎移植」リスクの増加の理由として、補正されていない背景因子の差が影響した可能性を否定しないが、それだけでは説明できないとの立場をとる。そしてSGLT2阻害薬と比べたGLP-1-RAによる腎不全リスク増加は、欧州における観察研究でも報告されているとする[Baviera M, et al, 2022]。
また両剤の重症高血糖リスクがフレイルの程度により異なっていたため、今後のガイドラインでは両剤の使い分けに「フレイル」を参照しても良いのではないかと提案している。
本研究は台湾教育部から資金提供を受けた。