禁食とし抗菌薬を投与する。経口摂取再開までに期間を要するので,中心静脈栄養を行う。食道内間欠持続吸引を行い,唾液などの垂れこみを防ぐ。保存的治療中は,採血や画像検査を頻回に行い,感染や全身状態の悪化を認めた場合には緊急手術を考慮する。
手術の原則は,洗浄ドレナージ,穿孔部の縫合閉鎖,胸腔ドレナージである。特発性食道破裂は下部食道左側に生じることが多い。筆者らは通常,右側臥位,第6あるいは第7肋間,後側方開胸にて手術を行っている。胸腔内は肺の葉間や壁側胸膜に残渣を残さないよう入念に洗浄することが肝要である。穿孔は食道の長軸方向に生じ,その特徴として外膜筋層よりも粘膜裂創が長いことが挙げられる。食道筋層を長軸方向に切開し,粘膜裂創部の全長の確認が必要である。筆者らは吸収糸を用いて穿孔部の縫合閉鎖を長軸方向に層々吻合で行っているが,これまでに狭窄を経験したことはない。胸腔ドレーンは,通常の上肺野までの胸腔背側と横隔膜上背側に加えて,胸部下行大動脈沿いに,ドレナージチューブと洗浄用チューブを並行して留置している。
術後合併症として,膿胸,縦隔膿瘍,縦隔炎,敗血症,縫合不全,創感染が挙げられる。胸腔ドレーン排液の性状や炎症反応などを参考に胸腔内洗浄を開始する。術後7~10日目に食道造影とCT検査を行い,縫合不全や膿胸の有無を確認して,経口摂取を再開する。遺残膿瘍に対してはCTガイド下ドレナージが有効である。また,縫合不全に対しては経鼻胃管を挿入して胃内容の食道逆流を予防する。
胸腔内穿破型の食道破裂は緊急手術を要する重篤な病態であるので,速やかに食道外科医にコンサルトする。保存的治療を選択した場合でも,緊急手術に対応できるよう食道外科医のバックアップを依頼する。自施設内に専門医が不在の場合には,食道外科医が常勤している近隣の施設にコンサルトする。
小柳和夫(東海大学医学部消化器外科教授)
數野暁人(東海大学医学部消化器外科講師)
山本美穂(東海大学医学部消化器外科講師)