ランダム化比較試験(RCT)では2型糖尿病(DM)合併の有無を問わず、心腎保護作用が確立した感もあるSGLT2阻害薬だが、実臨床データにおける心腎転帰改善作用は、他の血糖降下剤とさほど差がない可能性が示された。英国大規模観察データ解析として、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院 (英国)のPatrick Bidulka氏らが5月8日、British Medical Journal誌で報告した。
解析対象の母体は、英国かかりつけ医(GP)にてメトホルミンで治療開始後、SU剤かDPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を追加併用された2型DM 7万5739例である。重度腎機能低下例などは除外されている。英国GPデータベースから抽出した。
内訳はSU剤併用群が2万5693例、DPP-4阻害薬併用群が3万4464例、SGLT2阻害薬併用群が1万5582例である。平均年齢は56~62歳。BMI平均値は3群とも「30 kg/m2」を超えていた。
本研究では、RCT模倣という手法が採用された。理想的なRCTに近づくように、観察データ分析をデザインする手法である [Hernán MA, et al. 2016]。具体的には「操作変数法」を用いて背景因子に伴う交絡を排除した。同法は測定されていない交絡因子にも対応できるのが特徴とされる。このような手法を用いて、SU剤併用群とDPP-4阻害薬併用群、 SGLT2阻害薬併用群間で、(1)併用開始後1年間のHbA1c低下(1次評価項目)、(2)2年間の心腎イベントリスク―などを比較した。
・HbA1c
諸因子補正後、メトホルミンへの追加併用により、諸因子補正前のHbA1c低下幅が最も大きかったのはSGLT2阻害薬併用だった(対SU剤併用群で0.45%、対DPP-4阻害薬併用では0.51%の有意低値)。
・CVイベント
併用開始後2年間の「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」リスクは、「SGLT2阻害薬併用群とSU剤併用群間」「SGLT2阻害薬併用群とDPP-4阻害薬併用群間」のいずれにも有意差を認めなかった。SGLT2阻害薬併用群におけるハザード比 (HR)はそれぞれ、0.99(95%信頼区間[CI]:0.61-1.62)と0.91(95%CI:0.51-1.63)である。
一方、心不全入院はSGLT2阻害薬併用群で、DPP-4阻害薬併用群に比べるとHRは0.32(95%CI:0.12-0.85)と有意に低下していた。ただしSU剤併用群に対するHRは0.46(95%CI:0.20-1.05)で有意とならなかった。
・腎イベント
併用開始後2年間の「40%超のeGFR低下・末期腎疾患・死亡」リスクは、SGLT2阻害薬併用群とSU剤併用群、DPP-4阻害薬併用群間に有意差はなかった。「死亡」のみでリスクを比較しても同様に3群間に有意差はなかった。
プラセボ対照RCTの結果から、SGLT2阻害薬併用による心腎保護作用はSU剤やDPP-4阻害薬よりも強力だと一般的に考えられている。しかし本研究の結果はHF入院などを除きそれを支持しなかった。
このような違いをもたらした要因の一つとしてBidulka氏らは、本研究がそれらRCTよりも広い範囲の2型DMを対象としている点を挙げている。と同時に、本研究にも観察研究である以上多くの限界があり、解釈には注意が必要だと考えているようだ。
本研究は英国医療・社会福祉研究所から資金提供を受けた。