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過活動膀胱[私の治療]

No.5228 (2024年07月06日発行) P.44

羽賀宣博 (福岡大学医学部腎泌尿器外科学講座教授)

坪内和女 (福岡大学医学部腎泌尿器外科学講座)

立花昌寛 (福岡大学医学部腎泌尿器外科学講座)

登録日: 2024-07-09

最終更新日: 2024-07-02

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  • 国際尿禁制学会の定義では,過活動膀胱(overactive bladder:OAB)は尿意切迫感を必須症状とし,通常これに頻尿や夜間頻尿を伴うが,切迫性尿失禁を伴うこともあれば,伴わないこともある症状症候群であるとされている。加齢に伴い増加する本疾患は,2003年の日本排尿機能学会による疫学調査では,推定患者数が810万人とされ,2012年の人口で年齢の調整を行うと,推定患者数は1000万人を超えるとされている。患者数が大変多いため,泌尿器科専門医のみならず,一般医家も診察しなければならないcommon diseaseである。2022年に日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会により,「過活動膀胱診療ガイドライン 第3版」1)が上梓されている。

    ▶診断のポイント

    「過活動膀胱症状質問票」などを用いて問診を行い,尿意切迫感を有し,切迫性尿失禁や頻尿を認め,かつ検尿で異常所見を認めない場合にOABと診断する。検尿で膿尿を認める場合は,膀胱炎などの尿路感染症による過活動膀胱様症状が出現している可能性もある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    OABと診断された場合,残尿測定を行う。残尿が50mL以下であれば,一次治療として,生活指導を含めた行動療法を行うことが「過活動膀胱診療ガイドライン 第3版」1)で推奨されている。一方で,最大の治療効果を獲得するには,かなりの時間と患者の努力が必要となる。一次治療の効果が不十分な場合は,薬物療法となる。薬物療法の中心は,β3アドレナリン受容体作動薬と抗コリン薬となる。

    本疾患は加齢に伴って患者数が増加し,治療の中心は高齢者となる。高齢者への抗コリン薬投与は,β3アドレナリン受容体作動薬と比較し,便秘や口喝の有害事象が発症しやすいという報告がある。また,抗コリン薬は,β3アドレナリン受容体作動薬と比較し,尿路感染症や尿閉などの下部尿路機能障害を発症させやすいという報告がある2)。したがって,特に高齢のOAB患者に対しては,β3アドレナリン受容体作動薬が第一選択として用いられることが多い。しかし,抗コリン薬でも,フェソテロジンは,高齢者の薬剤の安全性を評価したLUTS-FORTA分類においてランクB(beneficial)とされており,高齢者にも比較的使用しやすい薬剤と考えられる。オキシブチニン塩酸塩経皮吸収型製剤は,皮膚に貼付することで効果を発現する。有害事象として貼付部位の皮膚障害に注意を要するが,口喝,便秘,尿閉の有害事象が少なく,嚥下障害を有する患者に対しても使用しやすい。

    治療効果が不十分な場合は,抗コリン薬に変更,ないしはβ3アドレナリン受容体作動薬と抗コリン薬の併用療法が勧められる。最近のわが国の大規模レセプトデータでは,多くの医師が最初に処方した薬剤を変更せずに継続投与しているという結果が報告された。治療効果が不十分な薬剤を漫然と投与することにより,患者のQOL低下をきたし,さらに服薬継続率の低下をまねきうるため,患者の病状を適宜把握し,適切な薬剤変更が勧められる。

    さらに注意が必要なのは,男性のOABに対する治療である。前立腺肥大症を認めない患者に対しては前述の治療方針でよいが,前立腺肥大症を認める場合は,尿閉などの排尿障害や残尿量増加をきたしうるため,α1遮断薬やPDE5阻害薬との併用療法が勧められる。なお,α1遮断薬やPDE5阻害薬の単独投与でもOAB症状は改善するが,両薬剤とも健康保険の適用は「前立腺肥大症に伴う排尿障害」であり,OABに対しての適応はないことに注意が必要である。

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