2008年に発表されたランダム化比較試験(RCT)"ACCORD"は、心血管系(CV)高リスク2型糖尿病(DM)について、「血糖」管理の厳格群が通常群に比べてCV転帰を改善せず、むしろ死亡リスクを有意に増やすという、ある意味で衝撃的な結果に終わった。2010年に発表されたRCT "ACCORD-BP"も、「血圧」管理の厳格群と通常群でCV転帰について有意差は示されなかった。
しかし「厳格」管理の有用性は「同居者の有無」で変わってくる可能性が、ACCORD-BP試験の後付解析から示唆された。京都大学の清原貫太氏らが6月27日、Journal of the American Heart Association誌で報告した。
ACCORD-BP試験の対象は、CV既往・CV高リスクの2型DM 4733例である。平均年齢は62.2歳、女性が47.7%を占めた。血圧平均値は139.4/76.0 mmHg、HbA1c平均値は8.3%だった。
これら4733例は2×2デザインで、「厳格降圧vs. 通常降圧」と「厳格血糖低下vs. 通常血糖降下」の4群にランダム化された。血圧の目標は「厳格」群が収縮期血圧「120 mmHg未満」、「通常」群が「140 mmHg未満」。血糖の目標(HbA1c)は「厳格」群が「6%未満」、「通常」群が「8%未満」である(オリジナル解析では「血圧」「血糖」いずれも「厳格」群における「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中」 [MACE] 抑制は観察されず)。
今回はこのデータのうち4731例を「同居者あり」群(3691例)と「独居」群(1040例)に分けて解析した。
・MACE発生率
平均4.7年間のMACE発生率は「同居者あり」群で9.2%、「独居」群で10%だった(有意差なし)。
・同居者有無別解析
しかし「厳格」管理の有用性は「同居者の有無」により影響を受けていた。すなわち、「同居者あり」群では血圧・血糖「厳格」群で、血圧・血糖「通常」群に比べMACEリスクの有意な低下が観察された(ハザード比 [HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.51-0.92)。
これに対し、「独居」群における血圧・血糖「厳格」群の血圧・血糖「通常」群に対するHRは0.96(95%CI:0.57-1.59)だった。そして血圧・血糖「厳格」低下の有用性は「同居者の有無」に有意な交互作用を受けていた。
・有害事象
低血糖発現頻度は「同居者あり」群では血圧・血糖「厳格」群:20.4%、同「通常」群:6.3%、「独居」群では順に18.8%と8.5%となり、「同居者あり」群と「独居」群間で差がなかった。「低血圧・失神・電解質異常・徐脈・急性腎障害・生存にかかわる腎不全」で比較しても同様だった。
清原氏らは「独居」群でのみ血圧・血糖「厳格」群の有用性を認めなかった原因として、以下の3つの可能性を挙げている。①生活習慣改善指導へのアドヒアランスに差、②服薬アドヒアランスに差、③低血糖を含む有害事象発現時の即時対応に差―である。
「同居者の有無」は2型DM例に対する「厳格」管理の有用性に本当に影響するのか―。清原氏らも記している通り、プロスペクティブな研究が待たれる。
本研究は日本学術振興会「国際共同研究加速基金」から協力を受けた。