僧帽弁逸脱症は,僧帽弁尖全体または一部が,収縮期に弁輪を越えて左房側へ落ち込む状態であり,それにより僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)を生じる病態である。僧帽弁逸脱症は,弁の変性・腱索断裂によって起こることが多い。
労作時息切れ,動悸などの症状を契機に発見されることも多いが,無症候で健診などの際に異常心音や心雑音を指摘され,それを契機に見つかることもしばしばある。聴診では,心尖部領域を最強点に全収縮期雑音を認めるが,弁全体の変性が強いBarlow病では,収縮中期クリックのあと,収縮後期に雑音を聴取することがある。逸脱のみで逆流がわずかな場合では,収縮中期クリックのみを聴取する。
確定診断は経胸壁心エコー図検査が必須であり,僧帽弁逸脱症の原因診断,重症度の評価を行うことができる。また,形態に関しては経食道心エコー図検査が非常に有用であり,手術術式に大きく影響を与える。労作時の重症度変化や肺高血圧の出現,症状の評価には運動負荷心エコー図検査も有用である。
僧帽弁逸脱症の治療方針は,重症度・症状の有無・原因・患者の状態により決定される。MRの重症度は重症かそれ以外かでわかれる。重症度の評価には,経胸壁心エコー図検査が第一となるが,評価が困難な場合には,経食道心エコー図検査・カテーテル検査(左室造影検査・右心カテーテル検査)を追加する。重症と診断した場合には,症状の有無によって治療方針が異なるため,問診が重要となる。その上で,無症状または症状がMRによるものか判別が難しい場合には,運動負荷心エコー図検査が推奨される。重症かつ有症状であれば,手術適応である。
無症状であっても,左室機能の低下・左室拡大がある場合には手術適応となる。その他,新規の心房細動・肺高血圧を認める場合にも手術適応となる。重症かつ無症状で,左室機能低下・左室拡大・新規の心房細動・肺高血圧を認めない場合にも,安全に耐久性のある僧帽弁形成術ができる場合には,手術介入を検討する。
近年,僧帽弁逸脱症と不整脈の関与について報告されている。Barlow病にみられるようなMAD(mitral annular disjunction。僧帽弁と弁輪が離れている状態)を認めるMRと心室性不整脈の関与が指摘され,不整脈high risk(左室のMRIでの遅延造影,多源性の期外収縮など)であれば植込み型除細動器(ICD)やカテーテルアブレーションが検討される。
残り1,231文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する