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長引く咳に対するステロイド治療の適応は?

No.5230 (2024年07月20日発行) P.44

權 寧博 (日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野主任教授)

登録日: 2024-07-22

最終更新日: 2024-07-16

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咳が長引く例では,「会話時」「冷気」「深呼吸」など,咳が誘発されやすい状況があります。いずれも気道過敏性亢進と判断し,ステロイド吸入の適応と考えてよいでしょうか。また,ほかにも咳の誘因と治療についてご教示下さい。(福岡県 K)


【回答】

【気道過敏性亢進が関係する咳には,ステロイド吸入が適切であると考えられる】

咳がいわゆる風邪や急性気管支炎によるものである場合,多くは1~2週間で自然に治まります。しかし,風邪が治った後でも咳だけが残ることがあります。このような咳は「急性咳嗽」と区別され,3週間以上続く場合を「遷延性咳嗽」,8週間以上続く場合を「慢性咳嗽」と呼びます。

慢性咳嗽の最も一般的な原因の1つに咳喘息があります。これは,アレルギーや炎症によって気道の過敏性が高まり,咳が起こりやすくなる疾患です。気道過敏性とは,タバコ,線香,花火の煙,冷たく乾燥した空気,急な運動など,通常は健康な人には影響しないような環境の変化や低濃度の化学物質の刺激に対して気管支が過敏に反応し,咳や気管支収縮を引き起こす状態を指します。このため,気管支拡張薬による咳の改善が診断の重要な手掛かりとなります。

咳喘息は,ゼーゼー,ヒューヒューといった音のない咳が8週間以上続き,聴診時に異常な呼吸音は認められませんが,β2刺激薬などによって改善がみられる場合に診断されます。特に,8週間以上持続することが特徴ですが,3~8週間の遷延性咳嗽でも診断可能です。ただし,3週間未満の急性咳嗽の場合は,感染性または感染後の咳嗽に対する過剰な治療を避けるために注意が必要です。

また,β2刺激薬への反応には個人差があるため,咳喘息でも効果がない場合があります。咳喘息の治療には,吸入ステロイド(ICS)が適用されます。咳喘息が強く疑われる例においては,一般にICSと長時間作用性β2刺激薬(long acting β2 agonist:LABA)の合剤が処方されることが多いです。症状が軽快しても治癒しているわけではないことから,医師の指示通りに治療を継続することも重要なポイントです。加えて,アレルゲンの回避や,禁煙,マスク着用や手洗いによる感染症の予防も同時に重要になります。

咳喘息以外にも,逆流性食道炎は慢性咳嗽の一般的な原因の1つです。胃酸が逆流して咽頭や喉頭に達すると,その部分を刺激して咳を引き起こすことがあります。この現象は,laryngopharyngeal reflex(LPR)と呼ばれます。

アトピー咳嗽は,中枢気道における好酸球の炎症や,咳受容体の感受性が亢進した状態です。ICSが効果的ですが,ヒスタミンH1受容体拮抗薬も効果があり,またβ2刺激薬は効かないことが特徴です。これは,咳喘息との鑑別において重要です。不要なICSの使用を避けるためにも,気管支拡張薬に対する反応性やヒスタミンH1受容体拮抗薬の効果を評価し,両者を鑑別することが診療のポイントになります。

喉頭アレルギーがあり,喉頭中心に起きるⅠ型アレルギーは,ヒスタミンH1受容体拮抗薬が有効です。そのような類似点から,アトピー咳嗽と喉頭アレルギーはオーバーラップした病態と考えられています。心因性咳嗽は,心理的な要因による咳を指し,ICSに抵抗性を示すことが多いです。治療法が確立されていないため,カウンセリングや抗不安薬,抗うつ薬の使用が行われることがあります。また,改善しない場合は内科や精神科医への紹介が必要になることもあります。

【回答者】

權 寧博 日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野主任教授

WEBコンテンツ「長引く咳の診かた」

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