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特集:結核診療Up-to-Date

No.5237 (2024年09月07日発行) P.18

大藤 貴 (国立国際医療研究センター国府台病院呼吸器内科)

登録日: 2024-09-06

最終更新日: 2024-09-04

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2005年山口大学医学部卒業。川崎医科大学呼吸器内科,公益財団法人結核予防会複十字病院呼吸器内科などを経て2018年から現職。呼吸器感染症,気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患を中心とした呼吸器内科の臨床・教育に従事している。著書に「あなたも名医! COPD患者さんを診るための25のコツ」(日本医事新報社)がある。

1 結核のハイリスク患者

  • 感染リスクとは,結核菌に曝露される可能性が高い状態のこと。
  • 発病リスクとは,結核感染後,免疫力の低下により,活動性結核となりやすい状態のこと。

2 肺結核の症状

  • 肺結核は慢性感染症であり,特異的な症状に乏しい。2週間以上咳が続く場合は胸部X線をとることが必要である。

3 肺結核の画像診断

  • 一次結核:胸部X線・CTでは,片側の肺門および縦隔リンパ節の腫大をきたす。胸水貯留をきたすこともある。肺野の病変はわずかであることが多い。
  • 二次結核:両側肺尖部・上肺野優位に,粒状影・結節影・空洞影といった様々な病変が混在している。
  • 胸部CTでのtree-in-bud appearanceは肺結核に見られる重要な所見である。

4 細菌学的検査

  • 肺結核を疑う場合は喀痰抗酸菌検査を3回行う。
  • 喀痰は塗抹検査+培養検査を3回,うち1つに核酸増幅法検査を併用する。
  • 胃液検査は痰の喀出が難しい場合に用い,喀痰培養検査と組み合わせると有用。

5 インターフェロンγ遊離試験

  • 結核菌に対するT細胞の免疫応答を測定する検査である。
  • 潜在性結核感染症,活動性結核のいずれも陽性となり,区別はできない。

6 肺結核の治療(抗菌化学療法)

  • 複数の薬剤を長期に投与する標準治療が確立している。
  • 高齢者でも,INH+RFP+EB+PZAの4剤での導入が弱く推奨されている。

7 潜在性結核感染症(LTBI)

  • 結核に感染したが,発症していない場合を潜在性結核感染症と呼ぶ。
  • 結核の接触者になった場合や,生物学的製剤を開始する前には積極的に精査する。
  • 活動性結核をきたすリスクが高い患者は,INH+RFPやINHで治療する。
  • INH+RFPの2剤併用は短期間であり,アドヒアランス向上が期待される。

はじめに

肺結核の診断は時に難しく,気がつかなければ診断に何カ月もかかることがある。これをdoctor’s delayと呼ぶ。患者自身が肺結核と気がつかず受診することをpatient’s delayと呼ぶ。

肺結核の診断が難しい理由としては,症状が非特異的でとらえにくいこと,通常の感染症と違い,増悪緩解を繰り返す慢性的な経過を示すことが挙げられる。

また,結核診療は「とっつきにくい」という一面がある。結核診療では専門的用語が多く,解釈も難しい。例としては,抗酸菌の細菌学的検査の中には塗抹や培養,核酸増幅法と親しみのないものが多く,結果の解釈も複雑である。

本稿では,肺結核の診断のコツと検査の解説をしていく。非専門医と専門医の橋渡しとなれば幸いである。結核症の多くは肺結核であり,本稿では肺結核を中心に述べていく。

1 COVID-19流行前後の結核の疫学

2023年の世界保健機関(World Health Organization:WHO)の世界結核報告書によれば,結核の患者数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前の2019年は約710万人であったが,2020年には約580万人,2021年は約640万人と低い数値が続いていた1)。しかし,2022年には約750万人となり,COVID-19流行前の水準に戻った。COVID-19の流行で医療機関へのアクセスやリソースも減ったことにより,診断と治療が遅れた影響も考えられる。

日本ではCOVID-19流行前,流行後も結核患者数は徐々に減少しており,2022年の結核罹患率は8.2で,結核の低蔓延国基準(10未満)を満たしていた2)。塗抹陽性肺結核の患者数は3703人で,前年の2021年より424人減少している2)。結核が順当に減っている可能性もあるが,医療へのアクセスが減り,喀痰の検査数が低下している可能性がある。いずれにせよ,結核症は稀であるが増加していると考えるほうがよさそうである。

2 結核のハイリスク患者

(1)結核の「感染リスク」と「発病リスク」

結核の「リスク」は2種類にわかれている。それは「感染リスク」と「発病リスク」である。

「感染」とは,結核菌を吸い込むなどで結核菌が「体の中にいる状態」のことを言う。「発病」とは,「感染」した結核菌が免疫で抑えきれず増殖して「活動性結核を生じた状態」である。いずれも一括りに「リスク」と表現されている。

(2)感染リスク

感染リスクとは,結核菌に曝露される可能性が高い状態である。たとえば以下のような状況が考えられる。

  • 刑務所・ホームレスなど,結核が蔓延している環境に身を置く場合
  • 結核高蔓延国の居住歴がある場合
  • 医療従事者

(3)発病リスク

発病リスクとは,結核に感染した後,免疫で抑えきれずに活動性結核をきたしやすい状態である。つまり,何らかの免疫不全と考えられる。たとえばヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)や移植,生物学的製剤やステロイドの使用,コントロール不良の糖尿病,胃切除や栄養不良な場合である。免疫力に関係なく,結核に感染して2年以内は発病リスクが高い。詳しくは後述の潜在性結核感染症で扱う。

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