肺結核の診断は時に難しく,気がつかなければ診断に何カ月もかかることがある。これをdoctor’s delayと呼ぶ。患者自身が肺結核と気がつかず受診することをpatient’s delayと呼ぶ。
肺結核の診断が難しい理由としては,症状が非特異的でとらえにくいこと,通常の感染症と違い,増悪緩解を繰り返す慢性的な経過を示すことが挙げられる。
また,結核診療は「とっつきにくい」という一面がある。結核診療では専門的用語が多く,解釈も難しい。例としては,抗酸菌の細菌学的検査の中には塗抹や培養,核酸増幅法と親しみのないものが多く,結果の解釈も複雑である。
本稿では,肺結核の診断のコツと検査の解説をしていく。非専門医と専門医の橋渡しとなれば幸いである。結核症の多くは肺結核であり,本稿では肺結核を中心に述べていく。
2023年の世界保健機関(World Health Organization:WHO)の世界結核報告書によれば,結核の患者数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前の2019年は約710万人であったが,2020年には約580万人,2021年は約640万人と低い数値が続いていた1)。しかし,2022年には約750万人となり,COVID-19流行前の水準に戻った。COVID-19の流行で医療機関へのアクセスやリソースも減ったことにより,診断と治療が遅れた影響も考えられる。
日本ではCOVID-19流行前,流行後も結核患者数は徐々に減少しており,2022年の結核罹患率は8.2で,結核の低蔓延国基準(10未満)を満たしていた2)。塗抹陽性肺結核の患者数は3703人で,前年の2021年より424人減少している2)。結核が順当に減っている可能性もあるが,医療へのアクセスが減り,喀痰の検査数が低下している可能性がある。いずれにせよ,結核症は稀であるが増加していると考えるほうがよさそうである。
結核の「リスク」は2種類にわかれている。それは「感染リスク」と「発病リスク」である。
「感染」とは,結核菌を吸い込むなどで結核菌が「体の中にいる状態」のことを言う。「発病」とは,「感染」した結核菌が免疫で抑えきれず増殖して「活動性結核を生じた状態」である。いずれも一括りに「リスク」と表現されている。
感染リスクとは,結核菌に曝露される可能性が高い状態である。たとえば以下のような状況が考えられる。
発病リスクとは,結核に感染した後,免疫で抑えきれずに活動性結核をきたしやすい状態である。つまり,何らかの免疫不全と考えられる。たとえばヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)や移植,生物学的製剤やステロイドの使用,コントロール不良の糖尿病,胃切除や栄養不良な場合である。免疫力に関係なく,結核に感染して2年以内は発病リスクが高い。詳しくは後述の潜在性結核感染症で扱う。