失神は臨床経過と患者状態から定義され,一過性に意識を失った後,短時間で意識が回復して神経学的異常を伴わない。日常診療で失神患者に遭遇する機会は少なくなく,その大部分は良好な経過であるが,器質的疾患に伴う失神を見逃してはいけない。心原性失神は心臓突然死のリスクがあり,失神した直後に救急外来を受診する患者には注意する。
失神は状況によって判断される病態である。通常,救急外来や一般外来を受診するときには自然回復している。「気が遠くなる気がする」「立っていられない状態でしゃがみこんでしまう」,時には「立ったまま意識を失う」患者もいる。失神した患者自らが症状を訴えず,意識消失した自覚がないことも多い。発生場所は自宅だけでなく,外出先,職場,学校,高齢者施設など様々な場所でみられ,高齢者では食事中やトイレ排泄時に失神して救急搬送される。
失神患者で外傷合併は20%以上とも言われる。受傷状況が転倒による顔面部外傷で搬送された場合,必ず,失神の有無を(できる範囲で)確認する。頭部外傷,転倒・転落による重症外傷,交通事故等も受傷前に意識を失った状況を伴う場合もあるので,家族・周囲の人々,救急隊,警察から情報収集を行う。
〈心原性失神〉
致死的病態が存在するため,発症時の状況〔運動時の失神か,安静臥床時の失神なのか,胸痛や動悸など胸部症状を伴う失神か,便・尿失禁(意識消失と血圧低下の間接的証拠であり,心原性のリスクを評価)の有無〕や家族歴(突然死の家族歴があれば致死性不整脈などの合併リスクを評価する)を詳しく聴取する。
〈血管迷走神経性失神〉
徐脈と低血圧がみられる。睡眠不足,過労,空腹,疼痛,強い精神的ストレス等,および採血など医療行為の際に誘発される。「悪心」や「目の前が暗くなる」といった前兆がある。
〈神経起因性失神〉
自律神経調節不全(血管迷走神経性失神,頸動脈洞過敏症候群など)による失神。
〈状況失神〉
食後低血圧,排尿時,アルコール摂取後などに起こる失神。
〈薬剤誘発性失神〉
新たな内服薬の服用後,投与量変更後の失神。
〈心因性失神〉
失神の約10%が精神疾患や過換気症候群に伴う症状とも言われる。
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