安定狭心症は,心筋虚血に伴い,主に労作時の胸部不快感や息切れを主訴とする疾患で,生命を直接脅かすイベント発生の頻度がそれほど高くないため,症状や生活の質(QOL)の改善が,治療の目的となっている。冠動脈が狭窄・閉塞している狭心症のほかに,冠動脈に狭窄がない微小血管狭心症や冠攣縮性狭心症などによる狭心症〔非閉塞性冠動脈疾患(INOCA)と総称される〕が多いことがわかってきた。
一過性の胸痛,胸部不快感や息切れが起こる。心臓が原因の症状であるかを聴取することが重要である。胸部症状はその性状によって,典型的狭心症,非典型的狭心症,非心臓性胸痛に分類される。①部位を限定できない胸骨下(または頸部,顎,肩,腕)の絞扼感または締めつけられるような痛み,②運動や精神的ストレスによる増悪,③安静もしくはニトログリセリンによる5分以内の症状改善,が典型的狭心症の特徴である。痛みが1つのみに合致,もしくは1つも合致しない場合には,非典型的狭心症,非心臓性胸痛と考えられる。
年齢,性別,冠危険因子,安静時心電図,心エコーなどの情報を合わせて臨床的尤度,検査前確率を判定する。第一選択となるのが冠動脈CTである。冠動脈CTは,虚血の程度が客観的に評価できる血流予備量比コンピューター断層撮影(FFR-CT)を保険診療で使用できるので,同意が得られれば積極的に活用する。冠動脈CTが腎機能やアレルギー等の理由で行えない場合は,99mTc負荷心筋シンチグラフィなどで診断する。画像診断を組み合わせない運動負荷心電図は診断の特異度が低いために推奨されない。
冠動脈CTで狭窄病変が見つかった場合は,薬物治療と生活指導を直ちに開始する。そして,症状とQOL・心機能改善のために,カテーテル(冠動脈造影)検査,血行再建術〔経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス手術(CABG)〕を行うかどうかを患者と相談する。カテーテル検査に関しては時間をかけて決めていってもよい。安定冠動脈疾患による胸痛は,INOCAと閉塞性冠動脈疾患の両方を念頭に置いて適切に診断し,虚血が証明された血行再建が必要な病変に対し血行再建術を行うことが求められる。血行再建術を行った後も,薬物療法と生活習慣の改善を継続することが重要である。
残り1,305文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する