大動脈弁の弁尖の接合が悪くなり,大動脈から左心室に拡張期逆流が生じる病態である。原因としては,①大動脈弁尖自体の異常,②大動脈基部の異常がある。前者では弁尖逸脱以外に弁尖短縮・肥厚による弁接合不全,感染による弁破壊が原因である。大動脈二尖弁では閉鎖不全を生じやすい。後者では大動脈基部(大動脈弁輪,バルサルバ洞,sino-tubular junction)および上行大動脈拡大によって弁尖が伸展された結果として弁尖接合が悪くなり,逆流が生じる。Marfan症候群においても後者の要因により逆流が生じる。大動脈解離が大動脈基部に及ぶと交連部の支持がなくなり,弁尖が左心室に下垂し逆流が生じる。激しい胸部鈍性外傷によっても同様のことが生じうる。
身体所見としては,逆流性心雑音を聴取するが,音が小さい場合もある。最低血圧が低下し,重度の逆流では60mmHg以下となり脈圧の拡大がみられる。胸部X線写真では左第4弓の拡大による左室拡大がみられるが,体型により個人差がある。慢性大動脈弁逆流では長期間無症状で経過し,労作時息切れなどの心不全症状の出現は緩徐であり注意を要する。非代償期になり心機能が落ちてくると心不全症状が出現する。感染・大動脈解離・外傷では急性に重度の逆流が生じ急激な心不全症状を呈するため,念頭に置いておく必要がある。
経胸壁心エコー(TTE)で逆流程度,左室サイズ,左室駆出率(LVEF)を測定する。弁の逸脱によるものか,大動脈基部拡大による接合不全なのか,その原因を探る。偏向性の逆流では逆流量の評価は難しく過小評価となることもあり,経食道心エコー(TEE)を考慮する。大動脈基部拡大あるいは上行大動脈が原因である可能性があるため胸部CT(造影)を行い,大きさと形態とを評価する。
大動脈弁閉鎖不全症の病因は様々であり,若年者から高齢者まで幅広い年代で生じる。
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