胃前庭部毛細血管拡張症は,拡張した毛細血管が前庭部に多発する疾患で,その毛細血管の破綻により上部消化管出血をきたす疾患である。背景疾患として肝硬変,慢性腎臓病,自己免疫疾患などの併存があり,高齢女性に多いことが知られている。病態としては,プロスタグランジンE2の上昇や蠕動運動による機械刺激,セロトニンやガストリンなどの血管作動物質の関与が考えられている1)。
胃前庭部毛細血管拡張症は多くの場合無症候性であり,黒色便や貧血に対する精査目的で施行された上部消化管内視鏡検査で指摘されることが多い。内視鏡所見にて,前庭部に放射状に縦走する帯状の毛細血管拡張を呈する(図)。また,前庭部にびまん性に毛細血管拡張がみられる,びまん性胃前庭部毛細血管拡張症も,広義の胃前庭部毛細血管拡張症と呼称される。この両者は,病理所見では同じ所見を呈することから,同質のものと考えられる。
胃前庭部毛細血管拡張症に対する治療適応は,消化管出血を認める場合である。また,貧血例で原因検索を行い,本症以外の原因がない場合は,消化管出血を認めなくとも治療の適応となる。
治療は,出血部位や拡張した毛細血管に対してアルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)を用いることが安全性・有効性の点から選択される。びまん性胃前庭部毛細血管拡張症はびまん性に血管拡張を認めることから,一度にすべての血管への内視鏡治療が難しいため,複数回にわけて治療を行うことも念頭に置く。
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