【概要】京大は2月27日、CASE-J試験に関して研究不正はないとする報告書を発表。同試験の記事広告で誇大広告の疑義が生じている問題については教授2人を厳重注意とした。
CASE-J試験は、降圧剤カンデサルタンとアムロジピンの心血管系イベントの発症抑制効果を比較した臨床試験。両群間で有意差はなかったが、カンデサルタン(商品名ブロプレス)を販売する武田薬品工業の記事広告では、当初高かったカンデサルタンの発現率がアムロジピンより低くなり交差して見えるカプラン・マイヤー(KM)曲線が用いられ、その交差部分を“ゴールデンクロス”と強調したことが昨年2月に明らかとなり、医薬品医療機器等法(旧薬事法)が禁じる誇大広告の疑義が生じていた。
武田薬品は昨年6月、第三者機関の調査結果を発表。論文と記事広告のKM曲線は一致しないことを認め、原因は不明とした。KM曲線の交差を示唆するゴールデンクロスという用語を使用した問題については、有意差なしのP値が明記されており誇大広告の疑いを否定。一方で、同社が京大に働きかけて糖尿病新規発症率を追加解析し、これも有意差が出なかったため糖尿病ではないことの定義を変更し、カンデサルタンに有利な結果を得たと指摘した。
●研究者には誇大広告の疑義を防ぐ責任
CASE-J試験の事務局を担った京大の調査報告書は学内の調査委員会が作成したもの。KM曲線については、生データと論文のKM曲線は一致したが、これらと日本語版スライド、販促資材のKM曲線とは「ずれ」があったと認定。しかし、ずれが生じているKM曲線は武田薬品が業者に委託して作成しており、京大は関与していないと判断した。
ゴールデンクロスと強調した記事広告について京大研究者は、「気づかなかった」と証言。しかし研究者の立場上、このような事態を防ぐことが望まれたとして、27日の会見では、研究責任者と販促資材に関わった研究者2人を口頭で厳重注意としたことが明かされた。当該研究者の名前は伏せられた。
これに対し記者からは、京大研究者自らが医学雑誌でクロスに言及しており、ゴールデンクロスの記事広告に気づかなかったとは考えにくいとの指摘が相次いだが、藤川義人弁護士は、別の研究者のヒアリングとして「KM曲線が有意差のない範囲でクロスしているよう見え、試験を延長したらどうなるのか興味があるというのが共通認識だった」との証言を紹介するにとどめた。
●武田薬品の第三者調査とは異なる事実認定
糖尿病の追加解析に関しては、妥当と判断。データ固定前に、バルサルタンとアムロジピンを比較したVALUE試験で糖尿病発症抑制に有利な結果が出たことから、「武田薬品の提案の有無にかかわらず、追加されていたことは明らか」とした。定義の変更についても、当初は、糖尿病の有無を各医師の判断でチェックしていたのを、“HbA1c 6.5%以上”などと客観的基準に変更したため、結果的に武田薬品に有利な変更になったものの、「医学的に明確な選択基準を採用しており変更は妥当」と判断した。
ただ、この変更が誰の提案かは不明。武田薬品の報告書では同社から依頼したとされているが、京大の調査で研究者は、武田薬品から変更依頼があったことを認めておらず、事実認定が異なっている。
なお、ゴールデンクロスの記事広告が誇大広告に当たる可能性について厚労省は、「関係者から事実関係を調査中。総合的に精査し対応を検討する」(医薬食品局監視指導・麻薬対策課)と話す。
【記者の眼】KM曲線のズレの原因は不明のままで、武田薬品の第三者調査と異なる事実認定もなされた。さらなる真相究明の必要を感じる。京大調査に協力した学外研究者は「誇大広告の疑いがある」と指摘する。(N)