左室ないし右室の心筋肥大および肥大に伴う拡張機能障害を特徴とする遺伝性疾患で,有病率は約200~500人に1人とされる。
労作時呼吸困難,胸痛,失神,動悸などが代表的な症状であるが,いずれも疾患特異的なものではない。心電図上は,左側胸部誘導の高電位,陰性T波,ST-T変化など,心筋肥大を反映した何らかの所見を有することが多いとされ,心電図検査は有用なスクリーニング検査とされる。最終的な診断には,経胸壁心臓超音波あるいは心臓MRI検査による形態学的評価(左室壁厚が15mm以上もしくは肥大型心筋症の家族歴を有する症例は13mm以上)および二次性心筋症の除外が必要である。
拡張相肥大型心筋症は,肥大型心筋症と診断されている症例のうち時間経過とともに,心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下をきたしたものを指すが,臨床的に拡張型心筋症との鑑別を要することも少なくないため,本稿では,左室駆出率が保たれている肥大型心筋症の治療について詳述する。
大部分の症例は良好な経過をたどるとされ,無症候の例も少なくない。無症候例に対する薬物療法の有効性についてはエビデンスがなく,薬物療法の適応は原則として有症候例となる。
肥大型心筋症の約70%は,安静時あるいは誘発時に左室内に有意な圧較差を有し,閉塞性肥大型心筋症と診断される。非閉塞性か,あるいは閉塞性か,により治療方針が異なるので,方針を立てる際には左室内閉塞の有無を確認することが重要である。非閉塞性,閉塞性ともに治療方針のポイントは,心不全および不整脈への対応となる。
非閉塞性肥大型心筋症の心不全に対しては,左室収縮力が保たれている一方で拡張機能障害が症状の原因のひとつとなっていることから,陰性変力作用を有する薬剤が選択される。うっ血症状を伴う場合は,利尿薬が選択される。閉塞性肥大型心筋症の心不全においては,拡張機能障害に加えて左室内閉塞が原因であるため,陰性変力作用を有する薬剤を基本とした左室内圧較差を減少させる薬剤が選択される。血管拡張作用のある薬剤や陽性変力作用のある薬剤の使用は,左室内圧較差を増加させるため禁忌である。薬物療法抵抗性の症例は,侵襲的治療である中隔縮小療法(外科的中隔心筋切除術あるいは経皮的中隔心筋焼灼術)やDDDペーシング療法の適応を検討する。
不整脈については,非閉塞性,閉塞性ともに突然死予防への対応を検討する。具体的には植込み型除細動器の適応の有無である。また,上室性あるいは心室性不整脈で対応がわかれる。
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