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■NEWS 【米国心臓協会(AHA)】HFpEFのCV転帰をGLP-1/GIP受容体アゴニストが改善。機序は「減量」ではなく「抗炎症」か:RCT"SUMMIT"

宇津貴史 (医学レポーター/J-CLEAR会員)

登録日: 2024-12-14

最終更新日: 2024-12-13

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昨年報告されたランダム化比較試験(RCTSTEP-HFpEF試験を受け、GLP-1受容体刺激による左室機能維持心不全(HFpEF)例の心血管系(CV)転帰改善に期待が集まっている。そうした中、今度はGLP-1GIP受容体アゴニストがHFpEFCV転帰を改善するというRCT"SUMMIT"が、1116日から米国シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会において発表された。報告者はMilton Packer氏(ベイラー大学、米国)。かつて心不全(HF)に禁忌とされていたβ遮断薬を標準薬に位置付けたHF研究のレジェンドである。

【対象】

SUMMIT試験の対象は「EF≧50%」かつ「BMI≧30kgm2」の症候性HFで、さらに「左房拡大」か「左室充満圧上昇」あるいは「NT-proBNP上昇」のいずれかを認め、加えて「HF増悪高リスク」と考えられた731例である。ほかのHFpEF試験と異なり「NT-proBNP上昇」が必須となっていない点をPacker氏は強調した。

HF増悪高リスク」の基準は、「6分間歩行距離:100425m」と「KCCQ-CSS≦80」「直近1年間に代償不全HF入院歴、または推算糸球体濾過率<70mL/分/1.73m2」。これら3つすべてを満たす場合が「高リスク」とされた。

平均年齢は65歳、50%強が女性だった。NT-proBNP中央値は、両群とも200pgmL以下だった。一方、hsCRP平均値は5.8mgdLで、47%には直近1年間の代償不全HF入院歴があり、KCCQ-CSS平均値は54点、6分間歩行距離平均は300m強だった。

【方法】

これら731例はGLP-1GIP受容体アゴニスト(チルゼパチド)群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。1次評価項目は「CV死亡・HF増悪」と「52週後のKCCQ-CSS」である。

当初は、このようなイベント発生リスクを比較するには検出力が不十分と考え、「総死亡・HF入院+KCCQ-CSS改善」から検討する「勝敗比(win ratio)」での比較を予定していた。しかし2023年に報告されたSTEP-HFpEF試験Suppl]で、HF発症が全体で13例のみだったにもかかわらず有意な群間差が検出された。それを契機にSUMMIT試験でも統計解析を見直し、上記評価項目のハザード比(HR)を比較するよう変更された(変更は盲検化を解く前)。

【結果】

・1次評価項目

104週間(中央値)観察後、GLP-1GIP受容体アゴニスト群における「CV死亡・HF増悪」の対プラセボ群HR0.6295%CI0.41-0.95)の有意低値となった(治療必要数[NNT]:19)。両群のカプランマイヤー曲線が乖離を始めたのは開始24週後からである(それまではほぼ一致)。

これら1次評価項目の差をもたらしたのは、もっぱら「HF増悪」(HR0.4195%CI0.22-0.75)だった(「CV死亡」には有意差なし)。なお「HF増悪」から「経口強心薬開始」と「静注剤治療開始」を除外した「HF入院」のみで比較しても、GLP-1GIP受容体アゴニスト群におけるHR0.44(同:0.22-0.87)の有意低値だった。「52週後のKCCQ-CSS」も同様で、GLP-1GIP受容体アゴニスト群でプラセボ群に比べ、6.9点(中央値)の有意改善を認めた。

GLP-1GIP受容体アゴニスト群におけるこれら2つの1次評価項目改善は、「年齢」「性別」「BMI 35kgm2の上下」「EF 60%の上下」などを問わず、一貫していた。

・2次評価項目(一部)

体重は試験開始直後から両群間に大きな差を認め、GLP-1GIP受容体アゴニスト群では52週間後、プラセボ群に比べ減量率幅は11.6%、有意に大きくなっていた。一方hsCRPは、群間差を認めるまでに時間を要した。最終的に52週間後、GLP-1GIP受容体アゴニスト群ではプラセボ群に比べ低下幅は34.9%有意に大きかったものの、群間差が有意となったのは試験開始後24週を越えてからだった。

【考察】

GLP-1GIP受容体アゴニストによる有用性の機序は「減量」ではなく、「内臓脂肪」の変質だとPacker氏は考えている(同氏はこれを「怒っている脂肪細胞をなだめる」と例えた)。具体例として挙がったのは、内臓脂肪における「炎症抑制」と「悪影響を及ぼすアディポカイン放出抑制」である。しかし記者会見でのやり取りからは「炎症抑制」をメインと考えているようだ。その上でGLP-1-RAGIP-RAいずれにも抗炎症作用はあるが、GIP受容体刺激による上乗せ効果の程度は不明だと述べている(なお別セッションでは「興味深いことに、心外膜脂肪にはどの組織よりGIP受容体が多い」と発言しており、GIP受容体刺激が心外膜脂肪に直接及ぼす影響も念頭にはあるようだ)。

共同座長のAmit Khera氏(サウスウェスタン大学、米国)が言及した通り、SELECT試験で観察されたGLP-1-RAによる肥満例CVイベント抑制は、減量を介さないとするデータが報告されている[本誌2024年米国糖尿病学会報告]。しかし「炎症」を重視する立場のPacker氏は、仮に今後SUMMIT試験の追加解析で減量と転帰改善が相関していなくとも「特に驚かないと」述べていた。

本試験は報告と同時に論文が、NEJMウェブサイトで公開された。

本試験はEli Lillyから資金提供を受けて実施された。同社はプロトコール/統計解析プラン作成にも参加し、データ解釈についての意見も述べた。またNEJM論文著者として社員5名が名を連ねた。

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