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認知症当事者の家族ケア[私の治療]

No.5259 (2025年02月08日発行) P.39

内田直樹 (たろうクリニック院長)

登録日: 2025-02-05

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  • 認知症当事者の家族ケアについて,平原は「本人の安定が家族支援の核」と書いている1)。認知症当事者の状態が不安定となる理由の代表的なものはBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)である。BPSDはケアする家族,支援者,医療従事者に多大な肉体的・精神的負担を強い,入院や施設入所の早期化,介護医療費の増加,本人および家族のQOLの低下の原因となることがわかっている2)。このBPSDについて,認知症当事者の苦痛の表現であるというとらえ方がある。本人がどういうことを苦痛に感じているかについて知るには,認知症当事者が書いた本が参考になる。認知症当事者である丹野は『認知症の私から見える社会』(講談社+α新書)の第1章「認知症の人たちの言葉から」で,過去に様々な当事者から聞いた実際の言葉と状況について紹介している3)。ここからわかるのは,認知症当事者がその家族や支援者から投げかけられた言葉によって傷つき苦痛を感じているという実態である。
    しかし,多くの家族は認知症当事者を傷つけようとしているわけではない。不安定となっている認知症当事者のケアに疲弊し,さらには認知症への理解が乏しいために,結果として認知症当事者を傷つける言葉がけや対応になってしまっている。このため,認知症当事者の家族をケアする際には,家族の疲弊を和らげることと,家族の認知症に関する理解を深めることが重要となる。

    ▶主治医としてやるべきこと

    【家族の疲弊を和らげるために】

    家族の疲弊を和らげるには,頼る先を増やすという視点が参考になる。当事者研究の第一人者である熊谷晋一郎は「障害者の自立生活運動は『依存先を親や施設以外に広げる運動』だと言い換えることができる」と述べている4)

    認知症当事者にもこれが当てはまる。認知症当事者の多くは依存先が家族に限られており,これによって家族は疲弊している。家族以外に頼る先をつくるために,介護保険を申請してケアマネジャーや訪問介護員,訪問看護師,デイサービス,ショートステイなどを導入し,家族の負担軽減を図ることが重要である。

    「認知症の人と家族の会」の調査でも,家族の気が休まるときとして最も多かった回答は「デイサービスやショートステイを利用して本人がいないとき」となっている。もちろん,在宅医療が家族の依存先のひとつとなるのも重要である。医療面について何かあればいつでも相談できるという体制は,家族にとっても大きな依存先となりうる。多職種で連携して本人と家族の疲弊を和らげることが重要となる。

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