細菌などの病原体が脳実質内に感染巣を形成する疾患。炎症組織を取り囲むように囊胞壁が経時的(約2~3週間)に形成され限局性に増大する。多発性に生じることも少なくない。膿瘍増大に伴い頭痛など頭蓋内圧亢進症状や局所神経脱落症状(巣症状)を呈するほか,てんかん発作の原因ともなる。
頭痛・発熱などの症状や経過,既往歴(免疫不全を素因として有する患者も多い)などから,脳膿瘍を疑うことが重要である。白血球増多,CRP上昇などの炎症所見も診断に役立つが,受診時には陰性のこともあるので注意が必要である。頭蓋内圧亢進時の腰椎穿刺は脳ヘルニアのリスクがあり禁忌となる。
頭部造影CT・MRIでは,周囲がリング状増強効果を示す限局性の病変を単発または多発性に認める。しばしば膠芽腫,転移性脳腫瘍などと鑑別を要する。MRIの拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)で,膿瘍に一致した拡散低下を示す高信号(ADC低値)を呈することが特徴的である。
起炎菌の推定にも役立つため感染源を確認する。歯周炎・副鼻腔炎・中耳炎・乳突蜂巣炎などの周囲組織から直接波及するほか,感染性心内膜炎や,遠隔の感染巣から先天性心・肺疾患による動静脈シャントなどを介した血行性の感染がある。また,頭部外傷や脳神経外科手術後に生じることもある1)。
抗菌薬投与を中心とした薬物治療と起炎菌同定・膿瘍減量を目的とした外科的治療の併用が基本となる2)。手術は,近年では膿瘍壁ごとの全摘出術は少なくなり,通常,膿瘍ドレナージ術が選択される。膿瘍径がおおむね1~2cm以上あれば穿刺可能である。被膜が破れて膿瘍が脳室内や髄腔内に流出すると予後不良となる恐れがあるため,大きいものや穿破の恐れがある病変に対しては,早期にドレナージ術を施行する。中等度以下のサイズの病変でも,手術で採取した膿からの起炎菌同定や,ドレナージによる膿瘍減量は治療に有効とされ,外科的治療が併用されることが多い。小さいものや脳深部で穿刺が困難な場合は,薬物単独にて治療が行われる。手術施行の有無にかかわらず,起炎菌に応じた抗菌薬の静脈内投与を長期間続ける必要がある。脳神経外科や感染症科など関連診療科と連携して治療を行うことが大切である。
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