妊娠中は増大した子宮の圧迫で尿のうっ滞が起こりやすく,膀胱炎・腎盂腎炎が好発する。また,それまで把握されていなかった慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)が妊婦健診で初めて見つかることもあるほか,CKDでフォロー中や腎移植後の女性が妊娠することも近年増えてきている。
尿路感染症は排尿時痛や背部叩打痛で自覚され,妊婦健診時に毎回行われる尿検査でも把握できるほか,胎児超音波検査の際に同時に腎エコーを行って水腎症を見出すことは容易である。CKDについては尿検査と,初期・中期・後期に行われる血液検査で見つかることが多い。
尿路感染症について,海外では無症候性細菌尿であっても早産や低出生体重児に関連するとの報告が多いが,わが国では妊婦健診の頻度が高く医療へのアクセスが良いので,早期に対処できるためかそこまで重視されておらず,産科的な対応に大きな差はない。ただし,腎盂腎炎まで波及してしまうと重症化のリスクが高く,周産期管理にも影響を及ぼすことがあるので,膀胱炎の段階で外来での内服治療を行っておくことが多い。発熱を伴うような腎盂腎炎に至っている場合は入院管理が必要である。淋菌やクラミジアについても健診中の検査で確認しておく。
尿路結石についても,疼痛が強い場合は切迫早産との鑑別が難しいケースもあり,入院管理を必要とすることが多い。ただし,多くの場合は鎮痛を主とした対症療法がほとんどで,泌尿器科医による尿管ステント術を必要とする例は少ない。体外衝撃波結石破砕術は妊婦には行わない。
CKDや腎移植後の妊婦において,ステロイドや免疫抑制薬の使用方法については専門家と連携して対処する。多くの必須薬剤は妊娠中も使用できるため,これら女性の妊娠を禁止するのではなく,支援する方向で対応するが,妊娠高血圧腎症や胎児発育不全の発症リスクが高いことに注意して管理する。なお,高血圧を合併する腎疾患でアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が用いられている場合は妊娠中に使用できないので,メチルドパやカルシウム拮抗薬など他剤への変更を早めに行っておく。
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