(概要) 政府協議会がゲノム情報に基づき個人に適した医療を提供する「ゲノム医療」の実現に向けた推進方針を示した。希少疾患、認知症などに研究を重点化し治療法開発を目指す。
政府の「ゲノム医療実現推進協議会」が15日に開いた会合で中間とりまとめ案として示され、了承された。日本でゲノム医療の政策方針が示されたのは初めて。来年度の概算要求基準に反映される見通し。
「ゲノム医療」とは、ゲノム検査結果などの情報に基づいて診断を行い、個人の体質や病状に応じた治療・予防法を提供するという新しい医療の姿だ。
中間まとめでは、今後、重点的に研究を進める疾患を2群に分けて示している(別掲)。
「第1グループ」は、ゲノム情報と疾患との関連に比較的エビデンスが蓄積されており、医療応用が近い段階にある疾患。単一遺伝子疾患、遺伝子の多型・変異が発症に影響する希少疾患・難病、若年性認知症、家族性癌などについて、ゲノム情報に基づく診断や治療法、治療薬開発の早期実現を目指す。
一方、「第2グループ」は、多くの国民が罹患する糖尿病、循環器疾患などを標的とする。予防や治療の最適化を目指すとともに、個人の体質や生活習慣に適した「個別化医療」の実現につなげる。
既存のバイオバンクや地域コホートを活用
報告書では、ゲノム研究の推進に当たり、既存のリソースを最大限有効活用する方針を打ち出している。具体的には、東北大の「東北メディカル・メガバンク計画」などのバイオバンクや、前向き地域コホート調査(久山町研究など)で蓄積されたデータを、研究の目的やターゲットとする疾患に応じてメタ解析などに利用する。既存の研究を活用することで、新たに大規模コホートを組む必要がなくなるため、研究の効率化が期待できる。
こうした複数の研究を“横につなぐ”プラットフォームづくりには、今年4月に発足した日本医療研究開発機構(AMED)が指揮をとる。
個別疾患を焦点とした研究も重視
今回の中間まとめの背景にあるのは、ゲノム研究を取り巻く国際的潮流の変化だ。報告書では、世界のゲノム研究は「遺伝子影響の大きい疾患に焦点を絞った疾患志向的研究」に移行しており、日本は「出遅れている」と断じている。
ゲノム医療の臨床応用化に向けた環境整備についても、報告書は、国家主導で大規模ゲノムコホートに取り組む米国・英国などに比べて、「わが国は不十分な点が多い」との認識を示している。
日本のゲノム研究は、「第2グループ」のような生活習慣病を標的とした研究に多くの予算が割かれてきた。これに対し中間まとめでは、世界の動向を踏まえ、「第1グループ」のような、発症に遺伝子の関与が示唆されている個別疾患にも焦点を当て、治療法や治療薬開発などゲノム医療の早期実現を目指すという方向性が強調されている。
【記者の眼】ゲノム医療が一般化した近未来の医療現場では、開業医や一般臨床医も日常的にゲノム情報を扱うことになる。ゲノム医療を早期に普及するならば、先端的研究の推進だけでなく、ゲノム情報の医学的解釈や遺伝学的検査の結果を説明できる人材の育成も考えるべき課題だ。(F)