【Q】
Amplatzer閉鎖栓を用いた心房中隔欠損症に対するカテーテル治療がわが国で開始されて以来,相当の治療症例数が蓄積されたと思われます。外科的閉鎖術の歴史は長く,良好な臨床成績も確立されていますが,開胸せずに治療できるメリットは大きく,経皮的治療に対する期待は非常に大きいと言えます。本法に対する適応症例の世界的なコンセンサスの変遷やわが国での臨床成績や長期予後成績,デバイスシステムも含めた今後の発展の予想について,京都府立医科大学・中村 猛先生のご教示をお願いします。
【質問者】
全 完:近江八幡市立総合医療センター循環器内科部長
【A】
経皮的心房中隔欠損(atrial septal defect:ASD)閉鎖術(心房中隔欠損症に対するカテーテル治療)というと,新奇な治療のように思われがちです。しかし,世界初の経皮的ASD閉鎖術が行われたのは1975年のことで,これは世界初の経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)に先立つこと2年です。世界第1例の閉鎖術を受けた17歳の少女は今や4人の子どもの母親で,つつがなく暮らしておられると聞きます。この症例からはおよそ40年の安全が確認されている治療であると言えます。
実際に一般的な治療として普及するまではPCIよりもデバイスの成熟に時間がかかり,現在用いられているAmplatzer閉鎖栓が日本で保険診療可能となったのは2006年です。現在,経皮的閉鎖術は日本Pediatric Interventional Cardiology学会の認可を受けた施設(2015年現在58施設)のみで実施可能です。したがって,全症例の把握が容易なはずで,今後は日本における全症例での長期成績の検討が望まれます。
これまでの海外での長期成績の報告の集積からは「経皮的ASD閉鎖術は外科的治療と同じ効果が得られ,かつ外科的治療よりも合併症が少ない」ということが認められています。日本でもこれまでに5000例を超える症例に経皮的閉鎖術が実施されていますが,死亡例はゼロで,周術期の大きな合併症としては閉鎖栓の脱落(約0.4%)および手技による心タンポナーデ(約0.1%)があります。閉鎖栓が内皮化されるまでの留置後半年間はアスピリンの投与が必要ですが,それ以降は(ほかに投与理由がなければ)薬物投与も不要となります。
ASDは早期に閉鎖すればするほど予後が改善し,また高齢になっても閉鎖により少なくとも症状の改善が認められます。右室拡大を認めるASDは症状にかかわらず閉鎖の適応があり,まず形態的に経皮的閉鎖術が可能かどうかを判断する必要があります。
実際問題として,経皮的閉鎖術が可能かどうかには経食道超音波による相当専門的な判断が必要です。成人で発見されるASDは,ほぼ全例が経皮的閉鎖術の対象となると言っても過言ではないため,成人のASDは発見されしだい,経皮閉鎖可能な施設へ紹介することが現在のASDの基本的治療方針と言えます。
一般的にASDの存在診断は経胸壁心臓超音波で行われますが,欠損孔そのものの描出は困難な場合があります。心エコーでほかの理由で説明困難な右室拡大を認めた場合は,積極的にASDを疑うべきです。存在診断としては,被曝の問題はあるものの,心臓CTの撮像も一法です(同時に冠動脈疾患や部分肺静脈還流異常症の除外も可能)。
経皮的閉鎖術にあって,外科手術にない合併症として慢性期の“erosion”と言われる問題があります(わが国の発生率は約0.2%)。ASDの形態と閉鎖栓のサイズとの不整合が原因で,閉鎖栓により心組織を慢性的に傷害し,慢性期に心タンポナーデをきたすものです。このerosionの発生を考慮しても,外科的治療より合併症が少ないことは揺るぎませんが,経皮的閉鎖術に特異な合併症であり,患者さんへの十分な説明が必要です。
現在,わが国で認可されており,使用可能なデバイスはAmplatzer閉鎖栓だけですが,今後,特にerosionの問題などが少ないと期待されるデバイスが認可されていく予定です。