株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

心房中隔欠損症に対するカテーテル治療の変遷と今後

No.4745 (2015年04月04日発行) P.56

中村 猛 (京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学学内講師)

登録日: 2015-04-04

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

Amplatzer閉鎖栓を用いた心房中隔欠損症に対するカテーテル治療がわが国で開始されて以来,相当の治療症例数が蓄積されたと思われます。外科的閉鎖術の歴史は長く,良好な臨床成績も確立されていますが,開胸せずに治療できるメリットは大きく,経皮的治療に対する期待は非常に大きいと言えます。本法に対する適応症例の世界的なコンセンサスの変遷やわが国での臨床成績や長期予後成績,デバイスシステムも含めた今後の発展の予想について,京都府立医科大学・中村 猛先生のご教示をお願いします。
【質問者】
全 完:近江八幡市立総合医療センター循環器内科部長

【A】

経皮的心房中隔欠損(atrial septal defect:ASD)閉鎖術(心房中隔欠損症に対するカテーテル治療)というと,新奇な治療のように思われがちです。しかし,世界初の経皮的ASD閉鎖術が行われたのは1975年のことで,これは世界初の経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)に先立つこと2年です。世界第1例の閉鎖術を受けた17歳の少女は今や4人の子どもの母親で,つつがなく暮らしておられると聞きます。この症例からはおよそ40年の安全が確認されている治療であると言えます。
実際に一般的な治療として普及するまではPCIよりもデバイスの成熟に時間がかかり,現在用いられているAmplatzer閉鎖栓が日本で保険診療可能となったのは2006年です。現在,経皮的閉鎖術は日本Pediatric Interventional Cardiology学会の認可を受けた施設(2015年現在58施設)のみで実施可能です。したがって,全症例の把握が容易なはずで,今後は日本における全症例での長期成績の検討が望まれます。
これまでの海外での長期成績の報告の集積からは「経皮的ASD閉鎖術は外科的治療と同じ効果が得られ,かつ外科的治療よりも合併症が少ない」ということが認められています。日本でもこれまでに5000例を超える症例に経皮的閉鎖術が実施されていますが,死亡例はゼロで,周術期の大きな合併症としては閉鎖栓の脱落(約0.4%)および手技による心タンポナーデ(約0.1%)があります。閉鎖栓が内皮化されるまでの留置後半年間はアスピリンの投与が必要ですが,それ以降は(ほかに投与理由がなければ)薬物投与も不要となります。
ASDは早期に閉鎖すればするほど予後が改善し,また高齢になっても閉鎖により少なくとも症状の改善が認められます。右室拡大を認めるASDは症状にかかわらず閉鎖の適応があり,まず形態的に経皮的閉鎖術が可能かどうかを判断する必要があります。
実際問題として,経皮的閉鎖術が可能かどうかには経食道超音波による相当専門的な判断が必要です。成人で発見されるASDは,ほぼ全例が経皮的閉鎖術の対象となると言っても過言ではないため,成人のASDは発見されしだい,経皮閉鎖可能な施設へ紹介することが現在のASDの基本的治療方針と言えます。
一般的にASDの存在診断は経胸壁心臓超音波で行われますが,欠損孔そのものの描出は困難な場合があります。心エコーでほかの理由で説明困難な右室拡大を認めた場合は,積極的にASDを疑うべきです。存在診断としては,被曝の問題はあるものの,心臓CTの撮像も一法です(同時に冠動脈疾患や部分肺静脈還流異常症の除外も可能)。
経皮的閉鎖術にあって,外科手術にない合併症として慢性期の“erosion”と言われる問題があります(わが国の発生率は約0.2%)。ASDの形態と閉鎖栓のサイズとの不整合が原因で,閉鎖栓により心組織を慢性的に傷害し,慢性期に心タンポナーデをきたすものです。このerosionの発生を考慮しても,外科的治療より合併症が少ないことは揺るぎませんが,経皮的閉鎖術に特異な合併症であり,患者さんへの十分な説明が必要です。
現在,わが国で認可されており,使用可能なデバイスはAmplatzer閉鎖栓だけですが,今後,特にerosionの問題などが少ないと期待されるデバイスが認可されていく予定です。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top