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卵円孔開存が関与する奇異性塞栓症と経皮的卵円孔閉鎖術

No.4761 (2015年07月25日発行) P.58

河村朗夫 (防衛医科大学校病院循環器内科准教授)

登録日: 2015-07-25

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

原因不明の脳梗塞と診断された患者さんから心房中隔の卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)がみつかる頻度は通常よりも高い,と言われています。比較的若年者の奇異性塞栓症(脳梗塞,心筋梗塞など)にPFOの関与が疑われる症例を時に経験しますが,その治療方法として若年者であっても抗血栓薬を一生服用し続けるのか,あるいはカテーテルを用いて卵円孔を閉鎖したほうがよいのか,結論が出ていません。塞栓症の再発という観点からも様々な研究が行われていますが,一方で経皮的卵円孔閉鎖術は抗血栓薬を半年間で中止できるという利点もあります。経皮的卵円孔閉鎖術について,防衛医科大学校病院・河村朗夫先生のご教示をお願いします。
【質問者】
原 英彦:東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科准教授

【A】

卵円孔は胎児では必ず開存しています。胎盤を経由して与えられる新鮮な血液は,卵円孔があるおかげで機能していない肺をバイパスして右房から左房へと導かれ,優先的に脳へ供給されます。出生後,卵円孔は不要となるため,閉鎖するのが普通ですが,成人になっても卵円孔が開通しているのがPFOです。
PFOは健常人の10~25%と少なからずみられます。しかし,原因不明の脳梗塞(cryptogenic stroke)と診断された患者さんでは,約50%と高頻度でみつかるとされています。これは,下肢などに生じた深部静脈血栓が右房にたどり着き,運悪くPFOを通って動脈に塞栓を生じる,奇異性塞栓と呼ばれる病態が起こることがあるからです。実際に,PFOを介した奇異性塞栓の事例が数多く報告されています。
ここで重要なことは,原因不明の脳梗塞患者にPFOがみつかったからといって,必ずしも奇異性塞栓が原因とは限らないということです。こうした場合でも,半数くらいは,PFOは偶然に居合わせたバイスタンダーであるのではないかとされています。実際には,発作性心房細動が原因である場合も少なくないのです。
では,PFOを介した奇異性塞栓の再発予防のためにはどのような治療法がベストでしょうか。欧米では,「原因不明の」脳梗塞を起こし,PFOがみつかった患者さんを対象として,カテーテルによる卵円孔閉鎖と薬物治療の再発予防効果を比較した無作為化比較試験が行われました。ただ,前述の通り,個々の患者さんで本当にPFOが原因の脳梗塞だったかどうかは判断が難しいわけです。
代表的なRESPECT試験は,60歳以下の患者さんを対象として行われました。結果はカテーテル治療が優勢でしたが,統計学的には有意差はみられませんでした。そのため,米国とわが国でまだカテーテル治療は保険承認されていません。ただ,この試験の平均追跡期間は2年間とごく短く,長期的にも差がないのかどうかはわかりません。
ご質問の若年者の場合ですが,わが国の報告では40歳以下の発作性心房細動の頻度は稀です。PFOが原因と考えられる脳梗塞の再発予防において,ガイドラインで推奨されている治療法はワルファリンなどの抗血栓薬の服用ですが,40歳以下の患者さんの平均余命を考えると,その後,約40年以上もの長期間にわたり薬を飲まなくてはならなくなります。出血性合併症も心配ですし,妊娠など中断を余儀なくされることもあるでしょう。
一方,PFOのカテーテル閉鎖術は安全な治療です。発作性心房細動の可能性が低い40歳以下の患者さんで,PFO以外に脳梗塞の原因を認めない場合には,カテーテル閉鎖術は良い治療選択肢です。わが国においても早期の保険承認が望まれます。

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