【Q】
大腸手術における術後管理の向上や手術部位感染への関心から,ドレーン留置の考え方も変化してきています。結腸手術では,わが国でも欧米と同様に,情報ドレーンや予防的ドレーンの留置は行わない施設が増加してきています。一方,直腸手術に関しては,予防的ドレーンが多くの施設で用いられています。
大腸の手術ではどのような場合にドレーンが必要か,明確な基準はなく,術者の判断にゆだねられているのが現状と思われます。そこで,大腸の待機的手術におけるドレーンの是非,留置する場合はその部位,数,固定法(移動しない工夫など),抜去のタイミングについて,東邦大学医療センター大森病院・船橋公彦先生にご回答をお願いします。
【質問者】
赤木由人:久留米大学医学部外科学講座主任教授
【A】
一般に,消化器疾患に対する手術において留置するドレーンは,以下の3つに大別できると思います。
(1)術後腹腔内に形成された死腔に溜まった血液・滲出液を体外へ誘導・排出させるドレーン
(2)術後の出血・リンパ漏・縫合不全を早期に診断する情報ドレーン
(3)術後合併症として腹腔内に発生した膿瘍や縫合不全に対し,膿や血液・消化液の除去を目的とした治療的ドレーン
ご質問を頂いた「大腸の待機的手術時のドレーン」は,術後に一定の頻度で発生してくる縫合不全に対する早期の診断と治療,の2つの目的を兼ね備えていると考えています。
大腸の術後縫合不全は,右側結腸に対する手術では,その頻度は低く,多くは直腸からS状結腸領域の手術で発生します。縫合不全の対応を誤ると重篤な病態に進展してしまう一方で,再手術となった場合にはストーマ(stoma)が造設される上に創感染もほぼ必発であり,患者さんのQOLを大きく低下させてしまいます。したがって,その発生防止には細心の注意が必要です。
しかし,縫合不全に関しては,これまでにも多くの研究者によって研究が行われ,発生の危険因子や防止に向けた手術手技が報告されてはいますが,縫合不全の原因と確実な防止策についてはいまだ確立されていないのが現状です。もちろんドレーンを予防的に留置すること自体で縫合不全を回避することができるとは考えていませんが,重篤な病態に移行しやすい縫合不全を早期に診断し,ドレーン管理を通して保存的に縫合不全を治癒させていけるという点に予防的ドレーン留置の最大の利点があると考えています。
最近では,術後管理の向上に加えて手術部位感染(surgical site infection:SSI)の問題,またCTガイド下での経皮的ドレナージの有用性から予防的ドレーンの留置を問題視する議論もありますが,私たちの施設で治療を受ける患者さんの背景を考慮すると,予防的ドレーン留置の利点が欠点にまさっていると判断し,待機の直腸手術に対しては全例留置を行っているのが現状です。また,透析や放射線照射後などの縫合不全のハイリスク患者に対してはdiverting stomaを計画的に造設しています。
留置するドレーンは,active drainを使用しており,ドレーンの先端が吻合部近傍に位置するように,左下腹部(腹腔鏡手術の場合は,左下のポート留置孔を利用)から1本骨盤腔に向けて挿入しますが,ドレーン先端が移動しないように皮膚挿入部から留置する方向に向けて腹膜外を5~6
cm這わせてから腹膜を貫いて留置するようにしています。
抜去のタイミングは,これまでに当教室で経験した縫合不全例の検討結果をもとに,現在では原則術後5~7日とし,血液・生化学的および理学的所見,ドレーンの性状を参考に,これらに問題がなければ抜去としています。