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前立腺癌に対する拡大リンパ節 郭清の診断的・治療的有効性

No.4774 (2015年10月24日発行) P.59

飯塚淳平 (東京女子医科大学泌尿器科)

登録日: 2015-10-24

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

前立腺癌に対する前立腺全摘術におけるリンパ節郭清は,以前は診断的な意味合いが強かったのですが,現在ではハイリスクの前立腺癌に対して拡大リンパ節郭清が根治性向上のために行われるようになっています。臨床上,リンパ節郭清についてどのような指針で対応しておられるでしょうか。前立腺癌に対するリンパ節郭清の意義や施行方法などについて,東京女子医科大学・飯塚淳平先生のご教示をお願いします。
【質問者】
中神義弘:東京医科大学病院泌尿器科講師

【A】

前立腺全摘術におけるリンパ節郭清は,従来,閉鎖リンパ節のみ(もしくは外腸骨リンパ節を含む)の限局郭清が主流でした。リンパ節郭清には診断的意義しかなく,治療的意義はない,と考えられていたからです。一方で,近年の欧米のガイドラインにおいては拡大リンパ節郭清が標準的手技として位置づけられており,従来の限局郭清では多くの見落としが起こるため,もはや施行すべきではない,とすら記されています。リンパ節郭清を行うか否かの適応はガイドラインにより若干の相違がありますが,その有用性は特に高リスク症例において明らかとなってきています。
当科における拡大リンパ節郭清の適応は,すべての高リスク症例とノモグラムで転移予測5%を超える中リスク症例としています。当院のリスク分類はD’Amico分類によるため若干の定義の相違はありますが,EAU(European Association of Urology)のガイドラインに準拠したものとなっています。どのノモグラムでリンパ節転移予測を算出すべきかに関しては,いずれのガイドラインにも明記されておらず,当院ではPartin tablesにより転移予測を算出しています。
拡大リンパ節郭清の範囲は外腸骨節,内腸骨節,閉鎖節と尿管交差部までの総腸骨節の各リンパ節と定義されていますが,これもガイドラインにより若干の相違があります。
当科における郭清範囲は以下のように規定しています。すなわち,外側は陰部大腿神経から,内側は膀胱周囲脂肪との境界まで,背側は骨盤底部,末梢側は回旋枝の起始部から,中枢側は総腸骨動脈の尿管交差部までとしています。外腸骨動脈の外側,および外腸骨動静脈の背側(骨盤壁との間)に関しては施行していないとする報告が多いのですが,一方ではリンパ節マッピングの結果,外腸骨動脈の外側にも転移を認めたとする報告もあり,施行しなくてよいとする明確な根拠は乏しいと考えています。
現在,当科ではすべてロボット補助下に前立腺全摘術およびリンパ節郭清を行っていますが,郭清操作だけで片側約30~40分かかっており,両側で約1~1.5時間,総手術時間が延長します。
リンパ節郭清を施行した51例において,郭清操作に起因すると考えられる合併症は現在まで3例に認めており,リンパ嚢腫2例と深部静脈血栓症1例です。リンパ嚢腫は1例において感染を併発したため洗浄ドレナージを要しましたが,1例は保存的に治療できました。深部静脈血栓症はリンパ節郭清を施行しなくても発症しうる合併症ですが,郭清操作による手術時間の延長は避けられず,注意が必要であると考えています。
拡大リンパ節郭清の診断的有用性に関しては多くの報告により明らかですが,近年ではその治療的有用性を示す報告も散見されるようになってきました。現在,欧米において前立腺全摘術における拡大リンパ節郭清の有効性を検証するランダム化比較試験が複数進行中であり,これらの結果が待たれるところです。

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