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便色カラーカードによる胆道閉鎖症早期発見

No.4775 (2015年10月31日発行) P.61

連 利博 (茨城県立こども病院副院長兼第二医療局長/ 小児医療がん研究センター長)

登録日: 2015-10-31

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

胆道閉鎖症の早期発見を目的に,便色カラーカードが母子手帳に掲載されて3年になります。
(1) これによって,早期発見例の比率は上昇しましたか。
(2) 手術後の脱黄には早期発見が重要です。しかし,「自己肝での長期生存」には,早期発見が必要であるが十分ではないという指摘もあります。本症の「自己肝での長期生存」には,発見の時期によって違いはありますか。
茨城県立こども病院・連 利博先生のご教示をお願いします。
【質問者】
松永正訓:松永クリニック小児科・小児外科院長

【A】

(1)便色カラーカードが全国展開された2012年から3年が経ちましたが,日本胆道閉鎖症研究会がホームページ(http://jbas.net/registration/)に掲載した胆道閉鎖症全国登録事業の集計はいまだ2013年までですので,なんとも言えないというのが正直なところです。
カラーカード・スクリーニング自体は日本で始まってから20年近くになりますが,限られた地域で施行されてきたこともあり,明確な効果があったとの報告は少ないようです。
以下,最近の話題を紹介したいと思います。詳細は,私の論文(文献1)をご参照下さい。
近年,台湾で全国規模のカラーカード・スクリーニングを施行したところ,3カ月以降症例は0となり,治療成績も改善したと報告されました。国際的にも複数の国々が追随しはじめています。米国でも,コストアナリシスで効果が期待されるとの最近の報告(文献2)があります。台湾では,妊婦へのカラーカード使用の周知を徹底したことでコンプライアンス(スクリーニングに参加することの同意)が上昇したことがその理由だろうと考えられており,そのキャンペーンを行う努力と,なにがしかの費用は必要と思われます。
本症患者の便色は生後早期は黄色であることが稀ではありませんが,さすがに3カ月以降症例では灰白色になっていることが多く,予後の悪い3カ月以降の発見症例は日本でも15%程度であることを考えると,確かに一定の効果が得られることは間違いありません。
しかし,これまでのカナダ,フランスから報告された自己肝長期生存の成績では1カ月以内手術症例がやはり一番成績が良いので,肝移植症例を減じることによる医療経済的効果を期待するならば,カラーカードには限界があると思われます。肝移植が行われている国々では,3カ月以降症例0を実現できた暁には,必ずや1カ月以内症例を増やすことが次の目標となることでしょう。
(2)自己肝長期生存が発見の時期(すなわち葛西手術時日齢)と関連しているかについては,日本胆道閉鎖症研究会が行っている登録のデータからみる限り,たかだか2年という短期的な調査ではありますが,30日以内の成績がベストで,30日を過ぎてから90日までの葛西手術の成績はあまり変わりはありません。さすがに3カ月以降では悪化しており,長期的な成績も同様だろうと思われます。
興味深いのは,歴史ある東北大学小児外科のみの成績では,30日以内の成績がベストで,30日を過ぎてから日齢とパラレルに長期成績が落ちていくことです。
私は,東北大学のデータが真実なのだと思います。全国登録はやはり様々な施設のいろいろなレベルの管理がなされた成績ですから,データがばらつくと思います。しかし,これも統計的な話であって日常の診療では早期症例でも脱黄できない症例が確かにあり,予後を規定する要因の病因に基づく解明が期待されます。

【文献】


1) Muraji T:Expert Rev Gastroenterol Hepatol. 2012;6(5):583-9.
2)Mogul D:J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2015;60(1):91-8.

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