【Q】
円錐切除既往の妊娠は後期流産,早産のハイリスク状態であることが知られており,切除された頸部組織が大きいほどそのリスクが増加するという報告があります。深い円錐切除既往により,妊娠初期から頸管長が極端に短縮していることが確認された場合,保存的対応,頸管縫縮術などの手術療法といった管理方針を決定する際に,どのようなことが判断のポイントになるでしょうか。
さらに,手術療法を選択した場合に子宮腟部の突出が少なかったり,手術の影響による瘢痕化のため頸管縫縮術が困難である場合には,どのような術式の選択,手術法の工夫が考えられるでしょうか。昭和大学江東豊洲病院・大槻克文先生のご教示をお願いします。
【質問者】
永松 健:東京大学医学部附属病院女性診療科・産科
【A】
円錐切除後の妊娠で認める早産率増加の原因は,頸管による妊娠子宮の物理的保持能力の減少以外に,円錐切除で頸管腺が切除されることにより,抗菌作用を有する頸管粘液の分泌が減少し,ひいては絨毛膜羊膜炎を誘発し,結果として前期破水を引き起こすためと考えられています。
これらのように円錐切除術などで子宮頸管の切除範囲が広範となった例では,残存頸管がほとんどないため従来の頸管縫縮術施行が困難で,仮に施行しえても後期の流産や早産に至る例があり,その対応に苦慮します。特に,従来,子宮全摘術を行っていたような子宮頸部悪性腫瘍に対しては,妊孕性を維持すべく子宮頸部広汎子宮全摘術が行われるようになっており,妊娠前に子宮腟部が広範囲かつ深く切除され,妊娠初期の段階で頸管長が極端に短縮している症例が発生しています。
このような背景の中で,円錐切除により子宮腟部が大きく欠損している場合の妊娠管理に際しては,より高位での頸管縫縮術の実施と子宮頸管の感染防御機能の評価が重要と考えます。
(1)頸管縫縮術の実際
従来の子宮頸管縫縮術とは異なり,仙骨子宮靱帯および膀胱子宮靱帯の上方で子宮峡部での頸管縫縮術の有用性がホットな話題となっています。現在,このような症例に対しては妊娠前に行う報告と妊娠が明らかになった12週以降に行う報告があります。妊娠前に実施した場合,初期の段階で流産や子宮内胎児死亡となった際に対応が困難となる可能性を認識しておく必要があります。
手術の方式としては経腟的,経腹的,経腹的内視鏡的方法が報告されています。内視鏡的に実施する場合,子宮峡部に運針する場合に,子宮動脈およびその分岐の走行にはとりわけ注意が必要です。いずれにしても,十分な説明と同意のもとで適応を限定して行う必要があります。また,分娩の様式にしても経腟分娩とするのか,あるいは選択的な帝王切開とすべきかについても結論が得られていません。
(2)子宮頸管の感染防御機能の評価
子宮頸管炎の前段階と考えられる細菌性腟症は,頸管の感染防御機能の評価の観点から早産のリスク因子のひとつと考え対処すべきです。細菌性腟症の妊婦全例に対する抗菌薬の全身投与が早産を減少させるかどうかは明らかではありませんが,特に細菌性腟症に加えて子宮頸管腺が大きく欠如したような早産の危険因子を有する妊婦に対しては,その感染菌に対応した抗菌薬治療が有効である可能性があります。また,理想としては,妊娠前から細菌性腟症を発見・治療することも肝要と考えられます。現在では,抗菌薬以外にもlactoferrinなどの抗炎症物質を使用する試みも報告されていますが,今後の研究成果に期待したいと思います。