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前立腺肥大症における薬物治療と外科治療の選択【QOL障害の程度と治療効果を評価し,薬物治療と外科治療の利点と欠点を説明して患者と一緒に決定する】

No.4794 (2016年03月12日発行) P.55

舛森直哉 (札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授)

登録日: 2016-03-12

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

前立腺肥大症に対する治療において,薬物治療と外科治療の選択はどのように行えばよいのでしょうか。札幌医科大学・舛森直哉先生のご教示をお願いします。
【質問者】
後藤百万:名古屋大学医学部附属病院泌尿器科教授

【A】

前立腺肥大症では,下部尿路機能障害により種々の程度の下部尿路症状が出現します。下部尿路症状がQOLに及ぼす影響は人によって様々であり,たとえば,夜間排尿が1回あっただけでも,これを苦痛と感じる人がいる一方で,3回でも平気だという人もいます。QOL疾患である前立腺肥大症では,患者に治療の希望を聴取することが大切です。すなわち,下部尿路症状によってどの程度患者が困っているのか,これによってどの程度QOLが障害されているのかを評価することが,治療適応やその方法の決定のために重要です。一方で,低い頻度ながら,前立腺肥大症による下部尿路機能障害により,水腎症,腎後性腎不全,膀胱結石などを合併する場合があります。この場合は,患者の訴える下部尿路症状の重症度にかかわらず,医学的な治療の必要性があります。
前立腺肥大症の治療法には,薬物治療と外科治療があります。薬物治療は,前立腺の平滑筋を弛緩させる薬剤(α1遮断薬やホスホジエステラーゼ5阻害薬)と前立腺体積を縮小させる薬剤(抗アンドロゲン薬や5α還元酵素阻害薬)に大別できます。前者は尿道の機能的閉塞,後者は機械的閉塞の改善に寄与します。また,前立腺肥大症に続発する,あるいは,これに併存する膀胱機能障害(過活動膀胱)に対しては,上記の薬剤に加えて過活動膀胱治療薬(抗コリン薬やβ3作動薬)を注意深く併用します。機能的閉塞,機械的閉塞および過活動膀胱がそれぞれどの程度関与するかは患者によって様々であり,上述の薬剤をどのように使用するかは,前立腺の大きさや過活動膀胱の残存をみて決定します。
一方,外科治療は,経尿道的前立腺切除術(TU
RP)がゴールドスタンダードとしての地位を保っていますが,最近では,ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)やレーザー前立腺蒸散術(PVP)などの低侵襲手術の著しい台頭が認められます。いずれも,肥大した腺腫を過不足なく除去することによって機能的閉塞と機械的閉塞の双方を即時的に解除します。
治療の有効性と侵襲性のバランスは,有効性は圧倒的に外科治療>薬物治療,侵襲性も圧倒的に外科治療>薬物治療,となります。腎後性腎不全などの医学的な治療の必要性がある場合は,不良な全身状態などの手術に関するリスクが少なければ,最も治療効果の高い外科治療が選択されます。一方,その他の症例では,初回治療として薬物治療が選択される場合が多いのは事実です。しかし,5年以上の長期成績が明らかな治療法は外科治療のみであり,また,治療期間が長期になるほど薬物治療では費用がかさむことになります。
いずれにしても,QOL障害の程度と患者が期待する治療効果を評価し,効果発現の時期・効果の程度,副作用・侵襲性,費用,長期成績に関する薬物治療と外科治療の利点と欠点を説明した上で,患者と一緒に最善な治療方法とその時期を決定することになります。

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