【Q】
最近,QOLや生命予後に影響を及ぼす可能性がある病態として夜間頻尿に注目が集まっています。
夜間頻尿の定義を見ますと「排尿の前後では睡眠していること」とあります。しかし,通常の排尿日誌(bladder diary)では,排尿前後の睡眠状態の把握やhours of undisturbed sleep(HUS)の算出は困難と思われます。排尿日誌により睡眠状態も併せて正確に評価できるような良い方法はあるでしょうか。静岡県立総合病院・吉村耕治先生のご教示をお願いします。
【質問者】
舛森直哉:札幌医科大学医学部泌尿器科学講座教授
【A】
難解かつ興味深いご質問をありがとうございます。まず,「排尿日誌による」睡眠状態も併せた正確な評価方法というのは,残念ながらないと考えます。
そもそも排尿日誌は,排尿時刻と排尿量,就床時刻,起床時刻を記載する頻度・尿量記録(frequency volume chart)に,尿意切迫の有無程度の情報を追記するものなので,これにより睡眠状態の正確な把握はできないと思われます。しかしながら,記載頂いているHUSは,もともとこの排尿日誌内の就床時刻から夜間第一排尿時刻までの時間として定義されたもので,複数の研究からこの時間の長短がQOLと関連していることがわかっていますので,実際にこの時間帯に眠っているかどうかは別にして,重要なパラメータであることに変わりはないと思います。
そして,「排尿の前後では睡眠していること」という定義について考えると,「睡眠」そのものを明確に判断できるツールがないと,正確には判断できないとも言えます。たとえば,排尿日誌と同様に,どの時間に睡眠していたかを記録する睡眠日誌という検査法があります。これは自覚的に眠っていると思われた時間帯を記録するものなので,実臨床においても簡便に導入可能ですし,併せて記録することにより,排尿日誌だけを記録するよりも睡眠について多くの情報を得ることができます。
しかし,そもそも何時何分から眠りについて,何時何分に眠りから覚めた,ということは本人にさえ正確には判断できない上,通常翌朝に思い出しながら記録するという検査上の特性もあり,正確性については満足できるものではないでしょう。睡眠観察の王道は睡眠ポリグラフィーですが,当然,患者の自宅では実施できません。その意味では,アクチウォッチ・アクチグラフは現実的なツールだと思われますが,医療機器を使用するという点で,やはり排尿日誌だけのように簡便には検査できません。
むしろ最近では,睡眠状態を記録するスマートフォン用のアプリケーションが複数使用可能となっていますので,スマートフォンを持っている患者でしたら,そのようなものを活用するのが便利かもしれません。