【Q】
骨髄線維症に対して,JAK2阻害薬のルキソリチニブ(ruxolitinib)がわが国でも保険適用となりました。従来,造血幹細胞移植を実施するしかなかった進行した骨髄線維症に対しても効果が確認されています。その分,JAK2阻害薬が奏効した場合の造血幹細胞移植適応について,悩みが生じています。
60歳代の患者の場合,今なら移植可能でも数年すると困難になってしまいます。効果持続をどこまで期待できるかがkeyとなりますが,JAK2阻害薬奏効例の移植適応について,十分治療可能な場合と血小板減少のため不十分な治療しかできない場合にわけてご教示下さい。順天堂大学・小松則夫先生のご教示をお願いします。
【質問者】
鈴木律朗:島根大学医学部腫瘍・血液内科准教授
【A】
造血幹細胞移植が適応となる年齢は65歳以下であり,原発性骨髄線維症の発症年齢の中央値が66歳ということを考えると,移植適応例はそう多くはありません。国際予後予測スコアリングシステム(International Prognostic Scoring System:IPSS,診断時に判定),Dynamic International Prognostic Scoring System(DIPSS,anytime),DIPSS plus(anytime)のいずれかで,Int-2,Highに属し,年齢が65歳以下であれば,移植を検討する必要があります。DIPSS plusで予想される生存期間の中央値はInt-2で2.9年,Highで1.3年と短く,予後不良と考えられるからです。
JAK2阻害薬奏効例(35%以上の脾腫縮小を達成)において1年で73%,3年で半数の症例が継続して効果を認めていますが,患者の約半数は3年以内に副作用や効果不十分のために服用を中止しています。したがってJAK2阻害薬奏効のInt-2,High症例は移植可能な条件がそろっていれば,積極的に移植を検討する必要があります。Int-1症例の場合にはDIPSS plusでは生存期間の中央値は6.5年になりますので,一般に移植適応の対象にはなりません。
しかし,DIPSS plusの項目に含まれている血小板数10万/μL未満や,ハイリスクの染色体異常(複雑核型あるいは括弧内の染色体異常を1つあるいは2つ含む)[+8,-7/7q-,i(17q),-5/5q-,12p-,inv(3)または11q23を含む転座]はDIPSS plusとは独立した白血病移行予測因子であるため,これらの因子のいずれかを有している場合には,たとえInt-1症例であっても移植が可能な条件がそろっていれば,積極的に移植を検討すべきではないかと考えます。
またLowまたはInt-1の症例でASXL1変異,EZH2変異,SRSF2変異,IDH1/2変異のうち,2個以上陽性の場合には,生存期間の中央値が1年(Mayoコホート)ないし3.2年(欧州コホート)と予後不良であることから,これらの症例も移植を検討すべきではないかと考えます。