【Q】
低アルブミン血症の際はアルブミン値でCa値を補正するが,アルブミン高値のときもこの補正は必要か。 (福岡県 I)
【A】
アルブミン(Alb)高値の場合は,イオン化カルシウム(Ca)値は正常でもAlbに結合したCaが増加し,見かけ上の高Ca血症が認められる可能性があり,何らかの補正が必要と考える。しかし,Ca代謝異常が問題となる慢性腎臓病における近年のガイドラインにおいては,「アルブミンが低値のときのみ補正式を用いる」とされており,検証された補正式がないのが現状と考える。
低Alb血症の際のCa補正式としては,
補正Ca濃度(mg/dL)=実測Ca濃度(mg/dL)
-血清Alb濃度(g/dL)+4
とするPayneの式(文献1)が有名であるが,これはCa代謝異常を伴わない肝疾患患者などを対象として検討された補正式であり,式中の4という値は本来,Albの正常値という意図ではなかったようである。
一方,木澤は「血清カルシウムのアルブミン補正とその意義」(文献2)の中で,「低蛋白血症ではイオン化Caが正常であっても蛋白結合Caが低下しており,見かけ上低Ca血症と判断され,高蛋白血症ではこの逆の現象が認められる」と記しており,Alb高値の際にも補正が必要という認識は一般的と考える。
筆者の専門である腎臓病領域では,Ca代謝異常が実際に存在する慢性腎臓病患者において,Ca値は治療によっても修飾を受け,生命予後とも相関することが明らかとなっており,厳格なコントロールが求められている。
しかし,日本透析医学会は,Caの評価には上述したPayneの式を用いることを推奨しているものの,ガイドラインではあくまで,Albの値が4.0g/dL未満の場合のみ補正式を使用するとされており,その根拠については記されていない(文献3)。また,米国腎臓財団のK/DOQIガイドラインでは,
補正Ca濃度(mg/dL)=実測Ca濃度(mg/dL)
+0.8 × (4-血清Alb濃度[g/dL])
の補正式使用を推奨しており,国際組織であるKDIGOでもイオン化Caの測定が望ましいが,血清総Ca値を用いる場合には同補正式を用いるとしている。同式の理論的背景として,血清Alb 1.0g/dL当たりCaが0.8mg/dL結合しているとされており,ここでの4という値はAlbの正常値という意味に解釈される。KDIGOガイドラインでも,「血清Alb低値のときはAlb値で補正すべきである」としているが,その根拠については明記されていない(文献4)。このようにAlb低値の場合ですら,Caの補正法については世界的に標準化がなされていないのが現状である。
Ca補正式の有用性を検証した報告自体が少ないようであるが,Gauciら(文献5)が慢性腎臓病患者を対象とした研究でも,血清Albが3.5g/dL未満の場合のみ補正式を適用して検討している。この報告では種々の補正式を使用してもイオン化Ca異常の予測力は非補正Caと比べ向上しないと結論づけており,低CO2血症の際の過小評価や低Alb血症の際の過大評価の問題を指摘している。
結論としては,Alb高値の場合は見かけ上の高Ca血症が認められるため補正が必要と考えるが,筆者が調べた限りでは補正式の有用性を検証した報告は見当たらなかった。Alb高値で高Ca血症が認められた場合は,イオン化Caを測定してみるのが妥当と考える。現在の補正式はあくまで,Albが低値のときのみ用いるとするのが一般的と考える。
近年,グロブリンとの交差反応の問題から,Albの測定法を従来のブロモクレゾールグリーン(BCG)法から改良ブロモクレゾールパープル(BCP)法へ変更する施設が増えてきているようであるが,改良BCP法ではBCG法と比較してAlbが低値を示すことが報告されており,これによる補正Ca値への影響(文献6)も臨床の場においては配慮されるべきと思われる。
1) Payne RB, et al:Br Med J. 1973;4(5893):643-6.
2) 木澤仙次:生物試料分析. 2005;28(4):287-94.
3) 秋澤忠男, 他:透析会誌. 2012;45(4):301-56.
4) Moe S, et al:Kidney Int. 2006;69(11):1945-53.
5) Gauci C, et al:J Am Soc Nephrol. 2008;19(8):1592-8.
6) Kato A, et al:Ther Apher Dial. 2011;15(6):540-6.