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心電図上での心房粗動と発作性心房性頻拍症の判別

No.4698 (2014年05月10日発行) P.65

市田 聡 (心臓病看護教育研究会代表)

登録日: 2014-05-10

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

心房粗動(atrial flutter:AFL)と発作性心房性頻拍症(paroxysmal atrial tachycardia:PAT)はどのように判別できるか。 (長崎県 N)

【A】

両者の違いは心房興奮頻度により示される。AFLの場合,心房興奮波は鋸歯様を示し,興奮頻度は300/min程度となることが多い。一方のPATではP波の形状を保ち,150~250/min付近までの頻拍になりやすい。
AFLとPATは,両者ともに心房内での頻拍,すなわち房室接合部性や房室回帰性頻拍を含まないものとされ,基本的に心房興奮頻度が250/min以内がPATで,250~350/min程度がAFLと判別される。
(1)AFLの分類
AFLは,心電図上での分類として,通常型(common type)と非通常型(uncommon type)および不純型(impure type)の3種類にわけられる(文献1)。
まず通常型の場合,興奮旋回部位が三尖弁輪と下大静脈の間峡付近で反時計方向回転を示す,およそ300/minの興奮が生まれる。また心電図上では特にⅡ,Ⅲ,aVFで陰性の鋸歯様波形が特徴である。これに対して,非通常型では旋回する方向が通常型とは逆の関係(時計方向回転)となるためにⅡ,Ⅲ,aVFで陽性の鋸歯様波形が登場する。
さらに不純型は,心房興奮頻度が300~350/min,あるいはそれを超えるもので,心房細動への移行期とも言えるものである。
これらの中で,遭遇する頻度の高いタイプが通常型で,ついで非通常型,不純型となる。特に通常型の場合,三尖弁輪と下大静脈の間峡を興奮が0.2秒程度で旋回し,そのため心房興奮頻度が300/minほどを呈することも特徴である。F波は記録紙上では5mm間隔となる(図1)。
心房興奮頻度が300/minの場合,房室接合部を通過し,心室側に伝導される頻度が,心房興奮頻度に対して2:1,3:1,4:1……といった関係を示す。そのため,心室興奮頻度が150/min,100/min,75/min……というような回数になる。
(2)PATの分類
一方のPATは心房内でのリエントリー性頻拍である。心房興奮頻度は100(一般的には150/minを超えるものが多い)~250/minで,発作の種類から反復型(repetitive type),慢性持続型(continuous type),発作性持続型(paroxysmal sustained type)にわけられる。
心房興奮頻度が250/minくらいまでで,房室伝導能が低下していない場合,心室には全興奮が伝導されることから心室レートも同じ数を示し,高頻拍になる。また,記録紙上でPとPの間隔は6 mmないし,それより長くなる。ただし,心房興奮頻度が200/minを超えるような場合には2:1伝導,あるいはそれ以上を示すこともあり,いわゆるPAT with blockを示す。心電図上は,PATは心房内で興奮が発生することからP波を認めることとなるが,実際には判別が困難となることもしばしばである。
(3)本回答におけるAFLとPATの判別法
前述のAFL,PATの分類をふまえて,質問は,AFLとPATで特に2:1伝導の心電図上での判別という趣旨と理解して,お答えする。
PATとAFLは,一言で言うと心房興奮頻度の違いと言える。もともとPATとAFLを区別しない考え方もあるが(文献2),一般的には,前述のように心房興奮頻度によって区別している。そのため,心電図上のP波もしくはF波(粗動波)を判別し,その回数によって区別することから,心房興奮波の判別が決め手となる。
たとえば,12誘導心電図上Ⅱ,Ⅲ,aVFで鋸歯様波形を認め,しかも心室興奮頻度が150/min程度を示す場合(AFLの2:1),AFLと判定できる。この場合,心房興奮頻度が300/minであることは,記録紙上でF波がほぼ5mmの等間隔で発生していることで判断できる。もしⅡ,Ⅲ,aVFでの心房興奮波(P波,F波)の判別が困難な場合,胸部誘導V1,V2が有用となることがある。
また,PATが心房での早期興奮が連続・持続するものであるのに対して,AFLは心房興奮が常に頻繁であるものの2:1伝導以下の3:1あるいは4:1伝導を示すため,当然,心室側は頻拍ではなく心電図上での判別は容易である。
そのため,迷走神経の過緊張(頸動脈圧迫,深吸気による息止め,あるいは咳払いなどによるValsalva効果など)を促すことが可能であれば,それによって房室伝導能が低下することで心室側は頻脈とはならず,P波やF波の観察が容易となり,判別しやすくなる。

【文献】


1) Puech P, et al: Arch Mal Coeur Vaiss. 1970;63(1):116-44.
2) Saoudi N, et al: Eur Heart J. 2001;22(14):1162-82.

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