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肺癌因子としての喫煙と遺伝子の関係

No.4699 (2014年05月17日発行) P.64

松村晃秀 (近畿中央胸部疾患センター副院長)

登録日: 2014-05-17

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

喫煙者で,肺癌になりやすい,あるいはなりにくい遺伝子が見つかっているか。(和歌山県 T)

【A】

典型的な遺伝性疾患を除いては,多くの疾患は環境と素因が関係している。肺癌の発症には遺伝的要素よりも喫煙や大気中の化学物質などの環境因子のほうが関係すると考えられているが,喫煙者が全例肺癌を発症するわけではなく,重喫煙者でも発症しない例が多く存在することも事実である。遺伝子を構成しているDNAの配列の個体差(遺伝子多型)と疾患の関係が,最近の解析技術の飛躍的進歩により,全ゲノム領域を対象とした疾患感受性遺伝子検索,ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)などにより明らかとなってきている。
たばこの煙には4000種類以上の物質が含まれており,その中の約200種類が有害な化学物質である。また,芳香族炭化水素,ニトロソアミン,ベンゾピレンなど40種類以上の発癌物質が含まれていると言われている。これらはまず第1相反応酵素であるCYP1A1によって酸化され,より毒性の強い中間代謝産物となった後,最終的にはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)によるグルタチオン抱合などにより無毒化される。CYP1A1遺伝子多型と肺癌リスクの上昇が喫煙者で顕著であること(文献1~3) ,GSTM1欠損のある群で肺癌リスクが上昇していたこと(文献3) が報告されている。
発癌物質などによって損傷を受けたDNAの修復活性を持つアプリン/アピリミジンエンドヌクレアーゼ(APE1)遺伝子の148番目のAspがGluに置換されたAsp148Gluでは,野生型のAsp148Aspに比較して肺癌のリスクが3倍以上であり,その傾向は喫煙者で顕著であったという報告もある(文献4)。
さらに,第15染色体q25上のニコチン性アセチルコリン受容体(nAchR)をコードする遺伝子のうちCHRNA3内の塩基GがTに変異している人では,1日の喫煙本数が多く,肺癌患者では塩基Tの人が有意に多かった(文献5)ことから,塩基Tの人はニコチンに依存しやすく,喫煙量が多くなり,その結果として肺癌になりやすいのではないかと推測される。日本人においても,15q25上のrs931794に遺伝子変異のない非喫煙者に比較して,重喫煙者では変異がなくとも約4倍,変異があれば約8倍肺癌のリスクが上昇していたと報告されている(文献6)。
以上から,たばこの煙に含まれる有害物資の代謝,損傷を受けたDNAの修復,喫煙習慣など様々な段階で遺伝子変異が関与している可能性がある。ただし一般的には個々の因子の関与は比較的低く,多くの因子が関与していると考えられる。

【文献】


1) Xu CH, et al:Tumor Biol. 2013;34(6):3901-11.
2) Ji YN, et al:PLoS One. 2012;7(8):e43397.
3) Kiyohara C, et al:J Thorac Oncol. 2012;7(6): 954-62.
4) A achan B, et al:Anticancer Res. 2009;29(6): 2417-20.
5) Thorgeirsson TE, et al:Nature. 2008;452(7187): 638-42.
6) Ito H, et al:J Thorac Oncol. 2012;7(5):790-8.

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