【Q】
健診などでの心電図検査の自動判定に,QRS-T夾角異常のコメントが出た。これに臨床的意味はあるのか。 (茨城県 C)
【A】
ヒトの心臓において,正常の心筋再分極過程(平均空間Tベクトル)は心筋脱分極過程(平均空間QRSベクトル)とほぼ同じ方向に向かうと考えられており,正常のQRS-T夾角(平均空間QRSベクトルとTベクトルを挟む角度)は比較的狭い角度である(図1)。実際に健常成人においては,以前に使用されていたベクトル心電図(Frank誘導)から求めた値によれば,通常40°以下であり50°を超えることは稀であると報告されている(文献1)。
しかし,小児から青年期のQRS-T夾角は正常者でも60°を超えることも多く,正常者においても年齢,性別などにより,個人の値にばらつきが大きいことが報告されている。
一方では,心筋再分極過程と脱分極過程のずれ(再分極異常),すなわちQRS-T夾角の大きな開大は,心筋虚血や心筋肥大などに伴う心筋障害の合併を示すことも明らかにされている。現在,使用されている標準12誘導心電図では,R波が高い誘導で,T波が扁平ないし陰性化し,S波が深い誘導で,T波が陽性化する所見としてみられ,何らかの心筋障害が存在する可能性も否定できない。このため,現在でも一部の心電図自動診断装置の診断項目に含まれている。
最近,Rautaharjuら(文献2)は,約4万例の閉経女性に関する心電図解析で,12誘導心電図から擬似的に空間的QRS-T夾角を求め,その大きな開大(>57°)は,冠動脈性心疾患の発症および冠動脈疾患による死亡のリスクを予測するマーカーとなることを報告しており,その意義が再注目されている。
1) 山田和生:最新心電図・ベクトル心電図学.第1版. メディカル出版, 1978, p166-7.
2) Rautaharju PM, et al:Circulation. 2006;113(4): 473-80.