【Q】
市立中学の校医。春に内科健診(聴診,アトピー性皮膚炎,胸部変形,行政の方針で脊椎側弯チェック)を行う。健診時は男子は上半身裸,女子は下着またはシャツを着用する。今年度,学校長より女子はさらに体操着着用との指示があった。理由は他校がそうしているからとのこと。健診の精度が落ちることが考えられるが,下記について。
(1)健診をどのように行うかは学校医の裁量ではないのか。
(2)強制された場合,健診を拒否できるか。
(3)仮にやむなく指示に従い,その結果生徒に不利益が生じた場合,責任は校長,学校医のどちらにあるか。 (愛知県 O)
【A】
(1)健診医の裁量
健診の施行には,当然専門家である健診医の裁量が認められるが,それはまったくの自由裁量とはいかない。
ご質問にいう学校健診のほとんどは,学校保健安全法に基づくものであろうと思われるのでその法的規定に従うべきことになり,また学校管理者の学校長の委託を受け,これを引き受けた担当医との委託契約や申し合わせに基づくという意味で,これらに制約される裁量と言わなければならない。
また,受診する児童生徒も単なる診察の対象というだけでなく人格の主体であり,保護者を含めて説明と同意をふまえて受診することを確保されるべき立場にある。そういう意味でも医師の裁量もこれらにも制約される部分が出てくる。
(2)健診の拒否
学校医が,不本意な健診体制,診察態様で誤診などの事故を防止できない状況であるのに意に反した健診を行い,児童生徒の安全配慮を全うできないと判断されれば,当然拒否できようし,法的責任を問われることはないだろう。
ただ,委託契約締結時や実施に向けての事前申し合わせで十分な検討を行うべきを,担当医側の過失でこれを懈怠したとすれば,いわゆる契約締結上の過失による責任を問われる可能性は否定できない。
(3)健診での見落としと責任追及
学校健診では,思春期の女子生徒を診察する際などに上半身の衣服を脱がせるか否かに加え,触診がセクハラと誤解されかねないという厄介な問題が生じ,衣服の上から聴診できる「聴診衣R」が開発されるという流れにもなっている。
他方,十分な健診を行わず側弯症を見落としたという主張の係争も起こっている。その責任追及は通常は共同不法行為責任という枠組みでなされることが多く,(不真正)連帯債務という形の責任を認められることになりがちである。
実際に医療訴訟やその後の求償訴訟の判断がなされるまでどうなるかは決まらない。