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マイコプラズマ治療の薬剤選択

No.4730 (2014年12月20日発行) P.60

前田光一 (奈良県立医科大学感染症センター准教授)

登録日: 2014-12-20

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

非定型肺炎の乾性咳嗽患者で,第3世代の経口セフェム系薬で症状が改善しない場合,ジスロマックが奏効した。クラリスが前投与されている場合,薬理学的に同系統のジスロマックを投与する意義はあるか。 (神奈川県 O)

【A】

Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ)による呼吸器感染症に対する治療としてお答えする。マイコプラズマは細胞壁を持たないため,細胞壁合成阻害を作用機序とするβ-ラクタム系薬は無効であり,マクロライド系薬,テトラサイクリン系薬,キノロン系薬などが効果がある。中でも,エリスロマイシン(EM)やクラリスロマイシン(CAM)などの14員環マクロライド系薬,および15員環マクロライド系薬のアジスロマイシン(AZM)は,マイコプラズマに優れた抗菌力を有し,第一選択薬として用いられる。
マイコプラズマのマクロライド感受性株におけるCAMの最小発育阻止濃度(MIC)は0.001~0.00156μg/mL,AZMのMICは0.000125~0.001μg/mLであり(文献1),AZMのほうがやや低いが,いずれもきわめて低値であることから,十分な有効性を見込める。
一方,2000年以降,マイコプラズマのマクロライド耐性株が,小児を中心に日本各地で分離されるようになり,その後,急速にその比率が増加していることが問題となっている(文献2)。成人では,その頻度は小児と比べて少ないとされるが,今後増加する可能性もある。
マイコプラズマのマクロライド耐性の機序は23SリボゾームRNAドメインⅤの点突然変異で,最も多いものは2063番目のアデニン(A)からグアニン(G)への変異である。ほかには2064番目のAがGに置換した株などもみられる。これらの変異では,14・15員環マクロライド系薬はいずれも高度耐性となる(文献3)。実際に,マクロライド耐性株におけるMICは,CAMが128~>128μg/mL,AZMが64~>128μg/mL(文献1)と,これもAZMのほうが若干低値ながらいずれも高値を示し,抗菌力を期待できない。
したがって,CAMの無効例に対してAZMに変更することで有効となる可能性は低いものと考えられる。ただし,マクロライド耐性のマイコプラズマ感染症でも,CAMやAZMを投与することで改善する場合があり,その機序として,これらの抗菌薬が持つ免疫修飾作用により有効性を発揮している可能性が考えられている。
ちなみに,マクロライド系薬を投与しても発熱が遷延するなどで耐性が考えられるマイコプラズマ感染症に対しては,成人ではテトラサイクリン系薬やキノロン系薬を用いることができる。小児におけるマクロライド無効例に対しては,使用する必要があると判断される場合は,トスフロキサシンまたはテトラサイクリン系薬の投与を考慮するが,後者は8歳未満には原則禁忌である(文献4)。

【文献】


1) Akaike H, et al:Jpn J Infect Dis. 2012; 65(6):535-8.
2) Morozumi M, et al:J Infect Chemother. 2010; 16(2):78-86.
3) Kawai Y, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2013;57(5):2252-8.
4) 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011追補版(平成25年2月19日)「小児肺炎マイコプラズマ肺炎の診断と治療に関する考え方」
[www.jspid.jp/pub/sguideline/2011_tsuihoban.pdf]

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