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易血栓指標と出血傾向指標

No.4745 (2015年04月04日発行) P.62

丸山征郎 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科システム血栓制御学講座特任教授)

登録日: 2015-04-04

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

血栓のできやすさの指標はありますか。出血傾向の指標であるPT(prothrombin time)やAPTT(activated partial thromboplastin time)を,血栓のできやすさの指標として使うことはできるでしょうか。鹿児島大学大学院・丸山征郎先生に。 (高知県 F)

【A】

(1)PT,APTTは血栓の指標とはならない
一言で言うと,血栓のできやすさを的確に診断する検査法はない,というのが回答です。そもそも血液学的検査(PT,APTT)などは,“出血傾向診断のための検査”として考案されてきた歴史を持ちます。これは,これまでは血栓に比べ,出血が臨床上の大きな問題であったためと考えられます。理論的にはPT, APTTが正常(基準値)よりも短縮すれば,血栓傾向ということになるわけですが,これらの凝固反応時間は頭打ち状態で,正常よりも早くなるのを測定することは現状では不可能です。
血漿を稀釈して基準値の幅を広げ,それより早く凝固する状態をキャッチすればよいのでは,と思えますが,血漿を稀釈してPT, APTTを測定すると再現性が得られません。ただ,PT,APTTが基準値内の下限,たとえばAPTTの基準値を25~37秒とした場合には,25秒の検体は37秒の検体と比べて,より凝固しやすいでしょう。
したがって長期フォローすると,より短いPT,APTTを示した検体の患者が心筋梗塞や脳梗塞になりやすい,という疫学のデータもあります。しかし,これは個々の患者の血栓傾向の正確な診断には不向きです。それでは,血液サンプルから血栓傾向は診断できないのでしょうか。以下では診断マーカーについて述べます。
(2)凝固亢進の分子マーカーが有用である
生体内でも,常に凝固(血栓)とその溶解は起きていると考えられます。それは,健康人の血漿でも,フィブリン分解産物のFDP(fibrin degradation product)やDダイマーが陽性であり,またトロンビンとそのインヒビターのアンチトロンビンの複合体(thrombin antithrombin complex:TAT)が微量(3ng/mL)に存在することからもうかがえます。この現象は生体内での凝固反応のダイナミズムを反映しており,“凝固亢進状態”を知る大まかなマーカーとして有用です。
これらのマーカーが基準値より高いということは,採血時点で,生体内での凝固と線溶の反応が亢進して起きていることを示しています。これは心房細動や心臓弁膜症などの場合の血栓傾向の把握には有用な指標であるので,エコーやX線,CT,MRIなどの画像検査を追加して,総合的に診断する必要があります。
これらの分子マーカーは,感染症や悪性腫瘍,外傷でも高値を示すので,基礎疾患を考慮して総合診断すべきですが,動脈硬化や脂質異常症,糖尿病,高血圧など,血栓症のリスクファクターを持つ患者で,上述の分子マーカーが高値を示せば,その患者は凝固亢進状態,すなわち血栓ができやすい状態にある,と診断することもできます。

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