【Q】
開業医が在宅診療で自分の両親や配偶者を診る場合,保険診療はできず自費となることは承知していますが,自宅で看取りをした場合はいかがでしょうか。親の死亡診断書を子が書くことは可能ですか。ご教示下さい。 (兵庫県 S)
【A】
結論から述べますと,開業医の先生が身内の方を自宅で医師として看取った場合,その死亡診断書を書くことは可能です。
周知のように,医師法第20条は,「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し,診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については,この限りでない」と規定しています。この規定の中には,近親者(身内)の場合を除くという趣旨の明文の除外規定はありません。
そこで,もし,医師が近親者(身内)の死亡診断書を書くことができないとすれば,たとえば,過疎地で奮闘している開業医の先生などの場合は,親を看取った後,遠路から別の医師をまねいて診断をしてもらった上で死亡診断書を書いてもらうことになります。これがあまりに不合理であることは,明白です。
今回の質問は,医師が自分の家族に対して保険診療を行えないこととの対比で出されているので,質問の背景には,開業医が身内に対する診療や看取りに関して自分の都合により診療行為を利用しているのではないか,と疑念を持たれることへの懸念があるのかもしれません。
確かに,保険診療は,診療報酬に直接関係し,身内の診療にこれを適用した場合,そのような疑念を持たれる恐れがあることから,保険組合の取り決めでこれに制限を加えていると解されます。しかし,看取りの場合は,必ずしも利害が直接関係するわけではないので,保険診療と同列に扱う必要はないと思われます。
もっとも,遺産相続や生命保険との関係で,看取りに際して故意または過失により親の死期を早めたのではないか,という疑念が持たれるような場合は,きわめて稀な例外として考える必要があります。この場合は,異状死体と判断されれば,医師法第21条による異状死体等の届出義務の規定が関わってきます。
故意の場合はあまり考えられませんが,明らかに重大な過失により死期を早めた場合は,現行法上,24時間以内に所轄警察署に届け出なければなりません(文献1)。このような場合は,ほかの医師の診断および死亡診断書の作成が必要です。
なお,ドイツでは,高齢者と親しくなった開業医夫妻が終末期医療の一環として過度のドランチン(DolantinR)を注射して死期を早めた事案で,遺産相続も絡んでいたことから,故殺罪で起訴され,第1審が有罪とされたものの,1996年連邦通常裁判所判決で無罪となったケースがあります(文献2)。しかしこのような事例は,きわめて稀と言えるでしょう。
【文献】
1) 甲斐克則:医療事故と刑法. 成文堂, 2012, p271以下.
2) 甲斐克則:安楽死と刑法. 成文堂, 2003, p103.