【Q】
無資格者が心電図検査を行うことは違法でしょうか。あるいは,「特定行為」ではないので,医師の指示があれば特に問題ないと考えてよいのでしょうか。 (岐阜県 K)
【A】
無資格者が心電図検査を行うことは,違法です。心電図検査は,医行為(医業)であり,原則として,「医師でなければ,医業をなしてはならない」(医師法第17条)とされています。もっとも,医師の指示を受けた看護師,診療放射線技師,臨床検査技師の個別の資格を有する人は,それぞれの資格を用いて医行為を行うことができます。特に看護師は,その職域が広がりつつあります。
心電図検査は,臨床検査技師等に関する法律に基づき臨床検査技師の資格を有する者が医師の指示のもとで行いうるものです。ここで,医師の指示があれば無資格者でも検査ができるのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし,この問題は,無資格者がコンタクトレンズ処方のための検眼とレンズ着脱を行った事案で医師法第17条・第31条違反に問われ,医行為(医業)とは,「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」である(東京高等裁判所平成6年11月15日高刑集第47巻3号299頁)と定義され,最高裁判所平成9年9月30日(刑集第51巻8号671頁)においても有罪(2名についてそれぞれ懲役5月執行猶予2年,懲役8月執行猶予2年)が確定して以来,このような理解が司法解釈として定着しています。
また,それ以前でも,かの有名な富士見産婦人科病院事件では,病院長(医師)が看護婦(当時)資格のない理事長(夫)に,患者134名に対して212回にわたり超音波検査(ME検査)を実施させ,また,看護婦(当時)資格のない秘書に,開腹手術における創部縫合に際して42回にわたり筋膜の縫合糸の結紮を行わせ,さらに,看護婦(当時)資格のない別の秘書に,13名の患者に対し16回にわたり心電図検査を行わせた事案について,病院長が,保健婦助産婦看護婦法(現・保健師助産師看護師法)第31条第1項・第32条,第43条第1項,刑法第60条第1項,臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律第20条の2第1項違反の罪に問われ(浦和地川越地判昭和63年1月28日判例時報1282号7頁:懲役8月執行猶予3年),無資格者の理事長も,医師法第17条違反の罪で処罰されています(浦和地川越地判昭和63年1月28日判時1282号26頁:懲役1年6月執行猶予4年,東京高判平成元年2月23日判例タイムズ第691号152頁)。
もちろん,人手不足から,実務上心電図検査ができる人にやらせないと日常の診療に支障をきたすという事情も考慮に値しますが,だからといって,現行法を無視してよいわけではありません。将来,法制度が変わることがありうるかもしれません。しかし,その場合でも一定の研修を終えた人についてのみ特例を認めることになるでしょう。