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直腸癌に対する術前治療

No.4716 (2014年09月13日発行) P.55

古畑智久 (札幌医科大学保健医療学部看護学科基礎・臨床医学講座教授)

登録日: 2014-09-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

欧米では術前放射線化学療法が積極的に行われてきましたが,近年,適応の見直しも議論されるようになりました。また,分子標的薬の登場に伴い術前化学療法を行う臨床試験も近年行われています。
私たちも進行直腸癌に対してはT3あるいはcN陽性症例においては術前放射線化学療法を考慮しておりますが,札幌医科大学・古畑智久先生は術前放射線化学療法の適応についてはどのようにお考えでしょうか。また,術前化学療法についてのご意見もお聞かせ下さい。
【質問者】
金澤旭宣:田附興風会医学研究所北野病院消化器 センター消化器外科部長

【A】

術前放射線化学療法の有用性は,欧米の臨床研究を中心に報告されていますが,骨盤内再発(局所再発)を低下させるものの,全生存期間の延長効果については明らかになっていないと思われます。これは,放射線療法と組み合わせる化学療法が5-FU単剤であることが多かったため,全身化学療法が不十分であった可能性があります。最近行われている臨床研究では,イリノテカンやオキサリプラチンを併用していることが多く,生存期間の延長効果が期待できると思われます。
放射線治療は,短期間に高い確率で腫瘍を縮小する効果があり,肛門温存の可能性や剥離断端の腫瘍陰性化などが臨床的長所と考えられていますが,その一方,縫合不全や骨盤内膿瘍などの術後合併症を発症した場合,創傷治癒が遅延するだけでなく,術後補助化学療法の導入が遅れる危険性もあります。したがって,術前放射線療法を行うにあたっては,その長所・短所を患者さんに説明し,十分な理解を得る必要があると思います。
これまでわが国において行われてきた直腸切除術に側方リンパ節郭清を追加する手術術式は,手術時間の延長,術中出血量の増加,術後排尿機能・性機能障害などが懸念されますが,習熟した術者によれば術前放射線化学療法と同等の成績と考えられており,常に選択肢の1つとして考えてよいと思います。
術前治療を行うにあたって,臨床医として懸念するのは,治療中に腫瘍が増大して腸閉塞などの合併症を発症することです。化学療法については腫瘍縮小効果が放射線照射に比べてそれほど高くなかったということもあり,これまで術前治療として化学療法単独で行われることはありませんでした。
しかし,最近では5-FU,イリノテカンやオキサリプラチンの多剤併用療法に加え,分子標的治療薬を用いることによって奏効率が向上し,病勢制御率が約90%にまで達するようになり,術前治療の選択肢の1つとして浮上してきました。既にいくつかの術前化学療法の臨床試験が現在進行中であり,その結果が待たれるところです。

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