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増加の一途をたどる救急出動件数の適正化

No.4723 (2014年11月01日発行) P.56

横田順一朗 (市立堺病院副院長)

登録日: 2014-11-01

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

総務省消防庁「平成25年の救急出動件数等(速報)」によると2013年中の救急車による出動件数は591万5956件(前年比11万3501件増,2.0%増),搬送人員は534万2427人(前年比9万2125件増,1.8%増)で,救急出動件数,搬送人員とも過去最多を記録しました。搬送人員で最も多かったのは急病(337万5127人,63.2%),ついで一般負傷(77万7093人,14.5%)でした。全国には767消防本部があり,出動件数が増加した527消防本部において,増加の理由として高齢の傷病者の増加が395本部(75.1%),急病の傷病者の増加が386本部(73.4%)となっていました。出動件数の増加に伴い,119番受信から救急車が現場に到着するまでの時間も全国平均8.4分と過去最長となってしまいました。
高齢化が急速に進展する中,今後も救急需要は増加の一途をたどるのは必然です。救急業務を取り巻く諸課題とそれらへの対応策を検討することが喫緊の課題であると考えます。日本外傷学会代表理事でこの問題に詳しい,市立堺病院・横田順一朗先生に,特に出動件数の適正化,受入医療機関選定困難事案の改善,現場到着時間の短縮化や,ひいては救命率の向上策についてお尋ねします。
【質問者】
山本保博:日本集団災害医学会代表理事

【A】

救急出動件数の増加の内容を分析すると,入院を必要としない軽症および65歳以上の高齢者の増加が際立っています。ここ10年の推移では,3週間以上の入院を要する重症例は小児や成人では減少傾向にありますが,高齢者では重症例が若干増え,中等症および軽症例が著しく増加し,全搬送の53.1%(2012年)を占めています(文献1)。まさしく,わが国の人口構造の特徴が救急搬送にも反映されていると言えます。
軽症例も全搬送の5割を超えています。このため,不要不急の要請を避けるなど,一般市民への救急車等の適正利用を啓発するための活動が長年行われてきました。しかし,救急要請の過度な抑制は重症な傷病者の受療機会を奪いかねない危険性があります。限られた資源を有効かつ安全に活用するためには,緊急度の高い傷病者を選別し,優先して対応する仕組みを導入しなければなりません。
(1)緊急度判定体系の構築
そのためにはエビデンスに基づいた精度の高い緊急度判定(トリアージ)体系の構築が不可欠であり,2011(平成23)年度より消防庁で有識者によるプロトコル作成が開始されました(文献2)。その結果,今では救急受診の自己判断や救急に関する電話相談,消防機関での通信指令員や現場救急隊員の判断,さらに救急医療機関での院内トリアージなど,いずれの段階においても緊急度を判定する尺度が標準化され,随所で採用されています。
また,高齢者の救急需要に対する対策については,家族,かかりつけ医および施設など高齢者の病気や環境に合わせたきめ細かな対策が必要であり,現在,社会福祉関係や地域包括ケアとも連携した救急要請のあり方が検討されています。
(2)受け入れの円滑化
次に,現場到着や病院搬送までの時間が延びている背景として,前述した救急要請の増加にも一因がありますが,救急救命士の処置拡大や収容医療機関とのミスマッチが大きな要因となっています。
救急救命処置については心肺停止に対する心肺蘇生に焦点が当てられてきましたが,2014年度からは心肺停止前のブドウ糖液投与や輸液が行えるようになりました。処置拡大は病院前救護の内容を充実させる反面,現場滞在時間の延長は免れません。さらに,医療機関の高度,専門化から,応需する条件が厳しくなり,多様な救急患者の受け入れを難しくしています。ミスマッチが生じることで,医療資源を有効に利用することができないばかりか,やはり救急隊の回転効率を悪くしています。
受け入れの円滑化を図るため「消防法の一部を改正する法律」(2009年)が施行され,各都道府県単位で搬送および受け入れの実施基準を設けるよう決められました。法の骨子は傷病者の病態に応じた適切な医療機関を選定し,搬送することにありますが,そのためには救急隊による傷病者の観察が鍵を握っています。これには先に述べた緊急度の判定も含まれ,地域のメディカルコントロール活動によって救急隊員への教育が行われ,救急業務全体の質向上が図られています(文献3)。

【文献】


1) 総務省消防庁:平成25年版 救急救助の現況, Ⅰ救急編.
[http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/field List9_3.html]
2) 総務省消防庁:平成25年度 緊急度判定体系に関する検討会報告書, 2014年3月.
[http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h25/kinkyudohantei_kensyo/03/index.html]
3) 厚生労働省:救急医療体制等のあり方に関する検討会報告書, 2014年2月.
[http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000036820.html]

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