大動脈弁輪拡張症や大動脈解離などの大動脈基部病変には,人工弁付き人工血管を用いた大動脈基部置換術(Bentall手術)が基本であった。しかし,1980~90年にかけて,英国のSarsamら(文献1)やカナダのDavidら(文献2)が,大動脈弁自体が温存可能な場合に自己大動脈弁を温存した基部置換術を開発した。前者が大動脈基部組織と人工血管を縫い合わせ,交連部の機能を温存するremodeling法で,後者が交連部を含め大動脈基部組織を人工血管に内挿し弁輪部を縫縮するreimplantation法である。
両者の違いはバルサルバ洞機能の有無にあるが,機能を持たない後者では,専用の形状をしたバルサルバ・グラフトが開発されている。術式の改良,変遷を経て,2000年頃から安定した成績が得られている。当初は弁の変形を伴うものは適応から除外されたが,最近では,逸脱,変形を伴う場合にもcentral plication法や弁尖つり上げ(cusp resuspension)法などの大動脈弁形成術を加えることで,遺残大動脈弁逆流の防止が図られている。大動脈二尖弁に起因する大動脈弁閉鎖不全も本法の適応となる。
さらに最近では,僧帽弁と比べ形成術が困難とされ人工弁置換術が標準術式であった大動脈弁でも,大動脈二尖弁を中心に単独の大動脈弁形成術が試みられ良好な成績が報告されてきている。いまだ一部の試みで遠隔成績も不明だが,大動脈弁輪縫縮術の工夫が試みられ,専用のリングも開発され,今後の発展が大いに期待される分野である。
1) Sarsam MA, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;105(3):435-8.
2) David TE, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 1995; 109(2):345-51.