甲状腺分化癌に対する標準的治療として,原発腫瘍に対する手術療法,再発予防を目的としたTSH抑制療法が行われてきた。再発・転移例に対しては,可及的外科的切除や内用療法(放射性ヨウ素治療)が行われてきた。再発・転移を起こした症例は徐々に腫瘍が増大し,内用療法に抵抗性となり,腫瘍死をきたす。
内用療法抵抗性となった甲状腺分化癌に対し様々な抗癌化学療法が試みられてきたが,臨床的有用性が科学的に検証されたものはない。そこで,分子標的治療薬が新規治療薬として試みられた。まず,有用性が期待できる結果が得られたのは,腎癌,肝細胞癌の治療薬として既に臨床応用されているマルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブ(ネクサバールR)である。内用療法抵抗性の局所進行・再発甲状腺分化癌患者を対照とした多施設二重盲検第3相試験では,本剤投与群207例と偽薬群209例が登録された。無進行生存期間の中央値は,前者10.8カ月,後者5.8カ月で,本剤の有効性が検証された(P<0.0001)。しかし,本剤投与例の98.6 %で手足症候群などの有害事象がみられている(文献1)。
2014年6月20日に本剤の「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能・効果の承認が得られた。さらに,マルチキナーゼ阻害薬lenvatinibも臨床第3相試験が行われ,無進行生存期間を1年余り延長するという良好な治療成績が報告されている(文献2)。
1) Brose MS, et al:Lancet. 2014;384(9940):319-28.
2) Schlumberger M, et al:J Clin Oncol. 2014; 32:5s.