直腸癌に対して直腸間膜全切除(TME)が行われるようになっているが,不完全なTMEは局所および全身再発が増加する。下部直腸癌では根治切除と機能温存の両立が重要な課題である。腹腔鏡下TMEの導入によってTMEの残存腫瘍の減少が期待されたが,従来の開腹手術と同等の結果であった。
経肛門的TMEは,単孔式内視鏡手術用の器具を用いて,直腸を受動するという新しい術式である。下部直腸癌100例に対して,従来の腹部からの腹腔鏡アプローチ(腹部群)と経肛門的に切除し腹部操作の腹腔鏡剥離と連続させるアプローチ(経肛門群)にわけて無作為化比較試験が行われた(文献1)。各群は各々50例であった。全周性結合組織断端の陽性率は,腹部群で18%であったのに対し,経肛門群で4%と有意に減少がみられた(P=0.025)。リンパ節郭清個数には差は認められなかった。経肛門群と腹部群で,手術による合併症は12%,14%,開腹移行率は4%,10%で有意差はみられなかった。全周性結合組織断端の陽性に関する多変量解析では,腹腔鏡のみのアプローチが独立した危険因子であった。切除標本からTMEの質に関して,後ろ向き研究を行った報告でも同様に,経肛門的TMEは従来の腹腔鏡下TMEと比べ,直腸間膜全切除の割合が有意に高かった(文献2)。
この新しい術式はまず骨盤神経の解剖,前立腺,腟との位置関係など剝離層の認識が重要である。特に高度肥満例や狭骨盤例では有用な術式になると考えられる。
1) Denost Q, et al:Ann Surg. 2014;260(6):993-9.
2) Velthuis S, et al:Surg Endosc. 2014;28(12): 3494-9.