上部胃癌における機能温存手術に噴門側胃切除術があるが,この術式は酸逆流防止機序である食道胃接合部の破壊を伴う。食道残胃吻合では逆流防止機構を付加しても逆流性食道炎の発生を完全に防ぐことはできず,それに起因して狭窄症状をきたすことが多いと言われてきた。かつては禁忌とも言われていたが,酸を制御する薬剤の進歩に伴い臨床的結果が許容範囲になってきたこと,近年の腹腔鏡下手術の普及により,この領域のがんに対しても腹腔鏡下手術が行われるようになり,腹腔鏡下手術に適した方法であることなどから,推奨される再建法になってきたと言える(文献1)。
機能温存による最大のメリットは,長期的な栄養によるものである。胃全摘術に比較して明らかに貧血症状が少なく,体重減少も少ない。一方,術後狭窄のほとんどはブジーにより改善するが,一定の期間治療を繰り返すこととなり,その間のQOLの低下が問題となる。したがって,この問題が解決されれば,機能温存手術としての噴門側胃切除の有用性はさらに上がると考えられる。
観音開き法は術後の逆流防止弁形成によって,噴門機能を再現することをめざした再建法である(文献2)。まだ経験数は少ないものの,逆流性食道炎はなく,吻合部狭窄も少ない可能性が示唆されている。今後,機能的側面からの検証が待たれてはいるものの,上部早期胃癌に対しては有望な技術的進歩と考えられる。
1) Hosoda K, et al:Surg Endosc. 2015 Oct 28. [Epub ahead of print]
2) 西崎正彦, 他:消外. 2011;34(12):1687-97.